1.はじめに
入札・履行保証保険、公共工事履行ボンドは、関係業界である建設業、保険業等の業界内においても、わかりにくい商品です。重要な事は、行政が定める入札・履行ボンド制度を理解し、その制度に沿った保証や保険の内容を把握する事です。制度と商品のポイントをご説明します。
2.入札・履行ボンド制度の概要
公共工事の入札・受注(落札)する建設業者等に保証等の提出を義務付ける制度であり、会計法に基づいて国が入札参加者や落札業者の与信・審査の一環として実施した仕組みです。
入札段階の保証の仕組みは入札ボンド、受注(落札)段階の保証の仕組みは履行ボンドと呼ばれます。
3.入札・履行ボンド制度の注意点
入札・履行ボンド制度に対応した保険も含めた金融商品には、入札保証証券(入札ボンド)、入札保証保険、公共工事履行保証証券(履行ボンド)、履行保証保険などがあります。これらを利用する事業者・工事業者の信用力や事業の健全性を保証する機能があるため、手続きには、決算書(直近2期分以上)の提出による審査があり、その内容によっては保証を受けられない(加入できない)可能性もあります。新規申込の場合、その審査には一定の時間が必要なため、即日にして手続きを完了できることは稀です。時間的に余裕をもった申し込みが必要です。
4.入札ボンド制度の目的
一般競争入札は、客観性や透明性を維持しつつ、競争を高める目的で普及してきましたが、同時に、不良不適格業者の参入や経営力に比べ過度な入札参加の増大が懸念されるなどのリスクもあります。そのため、入札参加者が入札を撤回した場合に、発注者が被る損害をカバーする仕組みが必要となります。
その仕組みとして平成18年に国土交通省と地方公共団体等の発注工事の一部において入札および契約の適正化のための仕組みとして、入札ボンドが導入されました。この制度により、入札参加者は、公共工事の入札にあたり入札金額の5%を納付、または金融機関等による審査・与信を経て発行される契約保証の提出を義務付けられることとなりました。
5.入札ボンド制度に期待される効果
入札ボンド制度の導入により、公共工事について契約履行能力が著しく劣る建設業者の排除し、深刻化するダンピングの防止、市場機能の活用による入札契約全体の透明性の向上、ひいては総合評価落札方式の運用と併せた技術と経営に優れた企業の伸長を図ることが期待されます。
6.入札ボンド制度の運用
会計法29条の4は、入札参加者に対し、入札時に入札金額の5%を納めることを定めており、一定の条件で現金納付を免除(保険証券または保証証券の提供)または納付に代わる担保を提供する運用がなされています。損害保険の入札保証保険または金融機関(損害保険会社を含む)や保証事業会社の契約保証(=これも入札ボンドと呼ばれる*)が利用されています。担保提供する方式では、金融機関の入札保証などがります。
*制度や仕組み全体の名称として「入札ボンド制度」があり、その制度の中で利用される契約保証も「入札ボンド」と呼ばれます。契約保証の「入札ボンド」は、契約保証の金融商品または手続きの名称でもあります。
7.入札保証保険とは
7-1.入札保証保険の機能
公共工事等の競争入札で、入札者は入札保証金の代わりに、入札保証保険証券の提出を求められることがあります。この場合、入札者は入札保証保険に加入することで、入札保証金が不要となります。
7-2-1.発注者の範囲
国およびこれに準ずる機関(各省庁、国立大学法人、独立行政法人など)
地方公共団体およびこれらに準ずる機関(都道府県、市町村、教育員会、公立学校、各種公社など)
7-2-2.公共工事の範囲
国、地方公共団体およびこれらに準ずる機関等が発注する設計、工事、側量
(なお、工事以外の売買契約についても対象とすることが出来ます。)
7-3.保険金額
保険金額は、発注者(入札公告者)の指定によって設定されます。通常は5%です。
(入札金額に消費税を込むか否かも発注者の指定によります。)
7-4.保険金の支払い方法
次の2通りがあります。
7-4-1定額てん補契約
落札業者が落札したにもかかわらず証券記載契約を締結しない場合において、入札公告等で定められた損害賠償の予定額(例えば、入札金額の5%など)について、保険金額を限度として保険金を発注者に支払う契約方式で、発注者が官公庁の場合はこの方式が一般的です。
7-4-2.実損てん補契約
落札したにもかかわらず証券記載契約を締結しない場合において、発注者が実際に被る損害額について、保険金額を限度に保険金を発注者に支払う契約方式。
7-5.保険期間
険期間は発注者から指定された期間となります。
7-6.保険料
保険料は、定額てん補方式の場合は、保険金額に保険料率を乗じて算出します。保険料率は、保険会社により異なり、また受注者の信用力に応じた割増または割引があるため、一律ではありません。目安として保険金額1,000円に対し0.50円程度です。なお、多くの保険会社が5,000円を最低保険料に設定しています。そのため、請負金額2億円、保険金額を入札金額の5%とした場合、保険金額は1,000万円で、保険料は5,000円となるため、これより規模が小さい場合は、5,000円となる可能性が高くなります。
8.履行ボンド制度の概要
履行ボンド制度とは、公共工事において受注者の責めに帰すべき事由により受注者が債務不履行に陥った場合、つまり請け負った工事を完成することが出来なくなってしまった場合に、発注者が被る金銭的損害を補填することの保証(金銭的保証)、又は残工事を保証人が選定する代替履行会社に完成させることの保証(役務的保証)の証書(履行ボンド)の提出を発注者が受注者に対して求める制度。実務上は、受注者は契約時に契約金額の10%の現金または有価証券、金融機関の保証証券、履行保証保険証券などを提供することを提出することになっています。
9.履行ボンド制度で受注者が求められる保証の種類
履行ボンド制度は、発注者である国や地方公共団体が受注者に対して、請負契約の履行について保証を求めます。その保証は、上記(履行ボンド制度の概要)に記載のある⓵金銭的保証と⓶役務的保証の2つがあり、発注者が指定します。また⓵金銭的保証については、5つの種類があり、受注者が選択できます。
9-1.金銭的保証
金銭的保証は下記の5つの種類があります。
- 契約保証金(現金の納付)
- 有価証券(1.の代替措置)金融機関の保証(1.の代替措置で、金融機関の審査の後、保証証券を提出します。)
- 履行ボンド(1.の代替措置で、保険会社の保証証券を提出します。ただし、付保割合(*)が低い契約に限られます。)
- 履行保証保険(1.の代替措置で、保険証券を提出します。)
9-2.役務的保証
役務的保証は履行ボンド、1つだけです。付保割合(*)が高い契約。一般的に履行ボンドと呼ばれるのは、こちらです。
*付保割合とは、請負金額に対する保証金額の割合です。一般的に付保割合は10%~30%であり、付保割合10%は低く金銭的保中心、20以上%は高いと考えられ役務的保証が中心となります。
9-3.履行ボンドという言葉についての注意点
「履行ボンド制度」の中に、金銭的保証と役務的保証があり、金銭的保証の選択肢の「4.履行ボンド」と役務的保証の「履行ボンド」があります。その違いは、付保割合です。一般的に役務的保証は履行ボンドとイコール(=)と考えられます。「履行ボンド制度の中に、履行ボンドという手続きがある、制度の名称と手続きの名称を混同しないようにしましょう。
10.履行ボンドと履行保証保険との違い
履行ボンド制度では、現金納付以外に履行ボンドと履行保証保険が利用されていますが、内容に違いがあり、発注者の指定によっては、履行保証保険では対応できない場合もあります。
履行ボンドと履行保証保険の大きな違いは、履行保証保険は「金銭的保証」ですが、履行ボンドなら「金銭的保証」と「役務的保証」の両方に対応できるということです。したがって発注者が役務的保証を指定した場合は、履行保証保険を選択することはできません。
発注者が役務的保証を希望した場合、履行ボンドなら、保険会社または保証事業者は代替業者を見つけて工事を履行する手配を行うことになります。通常、保証割合(付保割合)低い10%の場合は金銭保証、付保割合が高い30%の場合は役務保証が中心となります。
なお、コスト負担(保証料、保険料)については、請負金額に対する保証割合(付保割合)が同等であれば、大きな差異はありません。
11.履行保証保険とは
11-1.履行保証保険の機能
官公庁やこれに準ずる機関等と、各種工事や地図作成等の請負契約および物品納入契約等を締結する際に、契約保証金納入の代替手続として認められる保証措置の1つです。請負者の責めに帰すべき事由により工事を完成することができなくなった場合に、保証人である保険会社が請負契約に定める違約金の支払い、または残工事を完成させる責任を負担します。発注者は保証として金銭的保証または役務的保証のいずれかを指定する場合がありますが、履行保証保険は、金銭的保証が指定されている場合のみ利用できる保険です。なお、発注者がいずれの保証を求めているかは、請負契約書等に記載されます。
11-2.履行保証保険の対象範囲
11-2-1発注者の範囲
国およびこれに準ずる機関(各省庁、国立大学法人、独立行政法人など)
地方公共団体およびこれらに準ずる機関(都道府県、市町村、教育員会、公立学校、各種公社など)
11-2-2公共工事の範囲
国、地方公共団体およびこれらに準ずる機関等が発注する設計、工事、側量
(工事以外の売買契約についても対象とすることが出来ます。)
11-3.保険金額
保険金額は、発注者(入札公告者)の指定によって設定されます。通常は10%程度です。
(入札金額に消費税を込むか否かも発注者の指定によります。)
11-4.保険金の支払い方法
次の2通りがあります。
11-4-1.定額てん補契約
落札したにもかかわらず証券記載契約を締結しない場合において、入札公告等で定められた損害賠償の予定額(例えば、入札金額の5%など)について、保険金額を限度として保険金を発注者に支払う契約方式で、発注者が官公庁の場合はこの方式が一般的です。
11-4-2.実損てん補契約
請負・売買契約等の契約不履行の場合に、発注者が追加で負担する再契約代金と元の契約代金との差額について、保険金額を限度に発注者に支払う方式です。
11-5.瑕疵担保保証特約
発注者から受注者へ工事内容の瑕疵(かし、欠陥)について担保保証を要求されることがあり、その場合は付帯する特約です。工事目的物を引渡した後に瑕疵が発見された場合は、施工者(保証契約者)が補修工事を行うか、発注者に対して損害を賠償するかが、請負契約書に定められており、この定め(補修工事または賠償責任)を施工者が履行できない場合に、保険会社が発注者に対し保険金を支払います。
瑕疵担保責任の保険金額は、発注者から指定された保険金額を設定します。通常は履行保証保険の金額以下、保険期間は、工事目的物の引渡し日から1年~2年で請負契約書に規定されている内容に従います。
11-6.保険料
保険料は、下記の算式により決定されます。
保険料=請負金額×保険料率
保険料率=標準料率×高額割引×財務内容等による割増引率×期間係数
標準料率は、工事の難易度によって3ランク(A=平易な小規模工事、B=普通の工事、C=難易度の高い、大規模工事)あります。
11-6- 1.保険料例
C級工事(難易度の高い工事)、請負金額5,000万円 保険期間7カ月、定額てん補の場合
保険料 72,000円程度 瑕疵担保保証特約が付帯される場合は、概ね40%程度の割り増し保険料がかかります。(なお、実損てん補方式の場合、付保割合が10%の時、ほぼ同水準の保険料になります。)
11-7.保険金を支払わない場合
履行保証保険は、損害保険契約であるため、保険金を支払わない場合(免責事項)が定められています。主な免責事項は下記のとおりです。
- 戦争、外国の武力行使、革命、政権奪取、内乱、武装反乱等によって生じた損害
- 暴動または騒擾じょう、テロ行為またはテロ行為の結果として生じた損害
- 地震もしくは噴火またはこれらによる津波による損害
- 核燃料物質(使用済燃料を含みます。以下同様とします。)もしくは核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含みます。)の放射性・爆発性など有害な特性によって生じた損害など
12.公共工事履行保証証券(履行ボンド)とは
12-1.公共工事履行保証証券(履行ボンド)の概要
請負者(受注者)の責めに帰すべき事由により工事を完成することができなくなった場合に、保証人である保険会社または保証事業者が請負契約に定める違約金の支払いまたは残工事を完成させる責任を負担します。
12-2.公共工事履行保証証券の機能
官公庁およびこれに準ずる機関等の発注者は、工事等の請負契約を締結する際に、契約保証金の代わりに他の保証の提出を求めることがあります。履行ボンドはそうした他の保証に該当するもので、履行ボンドの保証証券を発注者に提出することで契約保証金が不要となります。
12-3.履行ボンドの対象範囲
12-3-1.発注者の範囲
国およびこれに準ずる機関(各省庁、国立大学法人、独立行政法人など)
地方公共団体およびこれらに準ずる機関(都道府県、市町村、教育員会、公立学校、各種公社など)
12-3-2.公共工事の範囲
国、地方公共団体およびこれらに準ずる機関等が発注する設計、工事、側量
(なお、売買契約の場合は、履行ボンドの対象とはなりません。履行保証保険で対象となります。)
12-4.保証金額
保証金額は、発注者の指定によって決定します。通常は、契約金額の10%~30%です。
12-5.保証期間
保証期間は、発注者から指定された期間で設定します。通常は、工事契約の時、請負契約締結日から引き渡し日まで、側量などの時、請負契約締結日から履行完了日までとなります。
12-6.瑕疵担保保証特約
発注者の瑕疵(かし、欠陥)について担保保証を要求されることがあり、その場合は付帯する特約です。工事目的物を引渡した後に瑕疵が発見された場合は、施工者(保証契約者)が補修工事を行うか、発注者に対して損害を賠償するかが、請負契約書に定められており、この定め(補修工事または賠償責任)を施工者が履行できない場合に、保険会社が担保責任を履行します。瑕疵担保責任の保証金額は、履行ボンドの保証金額以下、保証期間は、工事目的物の引渡し日から1年~2年で請負契約書に規定された期間に従います。
12-7.保証料
保証料は下記の算式により算出されます。
保証料=契約金額(請負金額)× 保証料率
保証料率=標準料率×高額割引×財務内容等による割増引率×期間係数
標準料率は、工事の難易度によって3ランク(A=平易な小規模工事、B=普通の工事、C=難易度の高い、大規模工事)あります。
12-7-1.保証料例
B級工事(普通の工事)、請負金額5,000万円 保証期間7カ月、保証(付保)割合10%の場合
保証料 55,000円程度 瑕疵担保保証特約が付帯される場合は、概ね25%程度の割り増し保証料がかかります。
13.まとめ
入札保証保険、公共工事履行保証証券(履行ボンド)、履行保証保険を含めた入札・履行保証ボンド制度に関する概要は以上です。これらはすべて、発注者の指示に従って手続きするもので、該当工事(該当売買)の契約書(案)にその内容が記載されています。具体的な疑問点は発注者に確認し、手続きについては保険会社または保証事業者に決算書と発注者の指示書や請負契約書(案)を提示することがスタートです。