労災上乗せ保険とは|補償内容・必要性などわかりやすく解説

労災上乗せ保険(法定外労災・業務災害補償保険)とはどんな保険なのか、その特徴、必要性、補償内容など基本的な内容についてわかりやすく解説しています。
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経営者にとって従業員がけがをする、病気になるといった事は大きな悩みの種です。通勤・退勤中の交通事故や仕事中の不意な事故、ストレスが原因によるうつ病など悩みはつきません。そして事業規模が大きくなれば携わる人の数も増え、事故が発生するリスクも高くなります。そういった際に活躍する労災上乗せ保険について、できる限りわかりやすく解説します。

労災上乗せ保険とは

労災保険とはその名の通り、従業員や下請業者が業務中にけがをした際に、労災保険とは別で上乗せとして保険金を支払う保険のことです。専門用語では法定外補償や任意労災という表現を行うこともあります。ここで言う従業員にはパートやアルバイト、臨時雇いの労働者も含まれます。各損害保険会社が販売しており加入率も高く、法人・個人事業主向けの保険おいては自動車保険に次ぐ、一般的な保険と言えるでしょう。

そもそも労災保険とは

そもそも労災保険とは何でしょうか。正式名称は「労働者災害補償保険」と言い、政府労災とも言われます。労働者災害補償保険法に基づく社会保険制度で、雇用主には加入が義務付けられています。自動車にかける自賠責保険と近い強制加入型の保険と言えます。労働者が事業主から与えられた労働を行っている際にけがや病気にかかった場合、労災保険から給付項目に応じた補償を受けられます。主に受けられる補償は治療費を補償する「療養給付」と、治療のため休業している際の賃金を補償する「休業給付」、そしてけがや病気が原因で後遺障害を負った場合に補償される「障害給付」があります。

この他にも死亡した際の被災者遺族に対する「遺族給付」、「葬祭給付」といった補償があり、労働者を守るための制度と言えるでしょう。

労災の発生が多い業種

一言に労災と言っても、日本では様々な業種があります。どのような業種で労災が多く発生しているのでしょうか。統計を確認してみると平成29年の労働中における死傷災害では1位が製造業(22.1%)、2位が建設業(12.6%)、3位が運送業(12.2%)となっています。

参考:厚生労働省「平成29年労働災害統計測定値」

製造業

最も労働災害が多い業種は製造業と言われています。具体的な事例としては工場内での機械装置による挟まれ、まきこまれによる事故が多く発生しています。機械の操作誤りでプレス機に手を挟まれてしまう、メンテナンス中に高所から落下するといった大けがに繋がる事故が多く、製造業者は安全管理を徹底することを求められています。

建設業

建設業は製造業に次ぐ労働災害の多い業種と言われています。最も多い事故は墜落・転落で高所作業を伴う建設業ならではの要因と言えます。

そのため建設業と労災は切っても切れない関係にあるため、建設現場では労働災害を起こさないための安全配慮が求められています。実際に建設現場においてヘルメットを被らずに作業している、ロープを付けずに高所作業をしている等安全配慮が徹底できていない下請業者は、現場から外すなど厳しい対応をしている元請建設会社もあるほどです。

運送業

運送業での事故は交通事故が大きな割合を占めます。長距離トラックのドライバーであれば10時間以上の運転を行うことも少なくなく、疲労による居眠り運転等が問題となっています。また荷物の積み込み、積み下ろしの際に荷物の下敷きになるなど、交通事故以外にも事故の危険性が高い業種と言えます。

労災上乗せ保険の役立つとき

経営者が安全配慮を行っていても、事故が発生することがあります。当然事故に遭った労働者は治療のため治療費がかかり、仕事を休んでいる間は収入が無くなることもあるでしょう。こういった際に労災保険から給付を受けられますが、十分な補償ではない場合があります。休業給付は休業4日目から、日額給与の80%(休業特別支給金含む)しかもらうことができず、仕事を休んでいる間は収入が下がることとなります。

こういった不足分を会社として補償するため、労災上乗せ保険の出番となります。休業給付では日額1万円など、自由に金額を設定することができ労働者に対して会社から支払うことができます。こうすることで従業員や下請け業者は「けがはしたけれども会社が手厚く補償してくれる」と感じ、良好な関係を築くことができるというわけです。仮に下請業者への発注がない場合は、下請業者を除く補償内容にするなど自由に設計できるのも労災上乗せ保険の強みです。

参考:厚生労働省「労災保険給付の概要」

労災上乗せ保険の必要性

労災上乗せ保険の必要性は、従業員に対する補償だけではなく、会社を守るためにも必要と言われています。建設業での事例を考えてみましょう。

あなたが経営する建設会社に勤務するAさんは妻、子ども2人を持つ40歳の男性です。Aさんはある日高所作業中に誤って足を踏み外し地面に落下、全身を強く打ち亡くなってしまいました。悲しむ遺族に対し労災保険からは遺族給付・遺族年金等が支給されました。

社長であるあなたはAさんの葬儀に行き、遺族に対し誠心誠意謝罪をしますが、遺族は「会社のせいで主人は亡くなった」と怒りが収まりません。後日あなたの会社に弁護士から訴状が届き、「安全配慮義務違反で損害賠償請求を行う」との訴えを起こされることとなります。

こういった事態を防ぐために労災上乗せ保険では「死亡保険金」を支払うことができます。従業員や下請業者が事故により死亡した場合、設定した金額が保険金として会社に支払われます。この会社に支払われるというのがポイントで、遺族に対しては「会社の誠意」として支払うことができます。遺族の立場からすると「会社としては誠意を見せてくれた」こととなり、後々の会社に対する不満を低減することが可能です。

労災上乗せ保険の特徴

労災上乗せ保険は上記のような補償が出来る点に加え、商品によって特徴があります。

契約方式について

労災リスクは業種によって様々です。前述した労災が多い業種もあれば、飲食業や小売業などけがのリスクは少ないものの、過労などけが以外のリスクが存在する業種もあります。また建設業においては下請業者がいますが、小売業においてはまずいないと考えられます。

そういった業種に合わせて下請を含む・含まないなど契約方式を変えることが可能となっています。また記名式と無記名式という2つの契約方式を選択することが可能です。

記名式と無記名式

記名式とは補償対象とする従業員等を1人1人特定して、保険会社に名簿として登録する契約方式です。それに対し無記名式とは従業員等を特定せず、その契約者が雇っている人を全員補償する契約方式です。一般的に記名式の方が保険料は安くなりますが、人の入れ替わりがあった際は都度手続きが必要になるという手間があります。無記名式では都度の手続きは必要なくなりますが、保険料は売上高によって高くなっていくため、売上が上がると次年度の保険料が高くなるといったデメリットがあります。

労災上乗せ保険の補償内容

労災上乗せ保険の補償内容は以下の通りで、保険会社によってそれぞれの補償を付け外しする、就業中のみの補償にするなど補償範囲を調整する、最低限の補償で保険料を抑えるなどカスタマイズが可能です。保険会社では傷害保険の一種として位置付けられています。

傷害死亡補償保険金

従業員や下請業者が仕事中にけがで死亡した場合に支払われる保険金です。支払われる保険金は任意で設定可能で、1000万円~2000万円ほどが一般的です。

後遺障害保険金

従業員や下請業者が仕事中に追ったけがが原因で後遺障害を負った場合に支払われる保険金です。後遺障害の程度によって支払われる保険金が変動します。

入院保険金

従業員や下請業者が仕事中に追ったけがが原因で入院した場合、入院日数に応じて保険金が支払われます。1日5000円や10000円で設定し、自由に設定可能です。

通院保険金

従業員や下請業者が仕事中に追ったけがが原因で通院した場合、通院日数に応じて保険金が支払われます。入院保険金と同じく日額いくらで設定しますが、入院保険金よりも低く設定しないといけないことが一般的です。

休業補償保険金

従業員や下請業者が仕事中に追ったけがが原因で休業した場合、休業日数に応じて保険金が支払われます。建設業の場合日当で働く人が多いため、休業すると収入が大幅に下がることが多く、そういった人達を手厚く補償するものとなっています。こちらも日額いくらで設定を行います。

疾病入院保険金

こちらは従業員が病気になり入院した際に支払われる保険金です。これまでのけがとは違い、仕事が原因でない傷病でも保険金支払いが可能です。そのため労災上乗せというより福利厚生の一環というかたちで補償を付けるケースが一般的です。治療費を実費で補償するタイプと、日額で補償するタイプがあります。

使用者賠償責任保険とは

労災が発生し遺族から訴えを起こされた場合、多額の損害賠償金を支払わないといけなくなる可能性があります。そういった際には労災上乗せ保険の特約である「使用者賠償責任保険」が適用できます。使用者賠償責任保険とは業務によるけがや病気が原因で損害賠償金を請求された場合、それらの損害賠償金や弁護士費用を補償することが可能です。損害賠償金は場合によっては1億円に上ることもあり、企業防衛のための保険と言えます。

人を雇っていない個人事業主でも労災上乗せ保険は必要か

個人事業主とは1人で事業を行っている事業者のことです。建設業では一人親方と言った呼び方が一般的です。従業員を雇っていない場合は前述したリスクはないと考えられますが、個人事業主でも労災上乗せ保険は必要と考えられます。

理由として個人事業主は労災保険の補償対象でないことが挙げられます。労災保険は雇用されている労働者のための補償のため、雇用主である個人事業主まで補償はできません。しかし万が一自分自身がけがで仕事ができなくなった場合、収入が無くなるリスクがあります。こういった際には労災上乗せ保険で補償を受けることができるため、事業を行う上で必要な補償と言えます。

(労災保険では雇用主も加入する特別補償制度というものもありますが、別途割増の保険料が必要となります)

また一人親方の場合は雇用をしていなくても、下請を使う場合があります。下請業者が仕事中にけがをした場合、元請が責任を問われる場合もあるため、前述した使用者賠償責任保険の必要性もあると言えます。

保険料の算出方法

保険料は一般的には直近の年間売上高で算出します。売上高が大きくなるほど携わる労働者の数が多くなると判断し、保険料が高くなっていく仕組みとなっています。また業種によっても保険料は変動し、複数種類の工事(道路工事や住宅建設など)を行っている場合、それぞれの工事ごとの売上高を申告する必要があります。詳細な保険料については保険代理店が算出可能なので、見積もり依頼を行うことで簡単に保険料を知ることが可能です。

労災上乗せ保険は生命保険ではなく損害保険となるため、損保代理店に依頼するのが良いでしょう。

労働災害総合保険とは

保険会社が販売する保険の中で「労働災害総合保険」という商品があります。こちらはよく労災上乗せ保険と混同されるため、違いについて説明します。

労災上乗せ保険との違い

労働災害総合保険は労災が発生した際に補償を受けられるという点は、労災上乗せ保険と同じです。ただ保険を使える条件として「労災認定がされる」というものがあります。事故が発生した際、それが本当に労働によるものなのかを労基署等に労災申請し、認定してもらう行為を労災認定と呼びます。認定には数か月かかることもあり、それまで保険金を支払うことができません。

それに対し労災上乗せ保険は労災認定を必要とせず保険金を支払える補償があり、スピーディーな対応ができる点が労災上乗せ保険との違いでありメリットと言えます。

労災上乗せ保険の勘定項目

労災上乗せ保険の保険料の会計処理については、悩まれる方が多いのではないでしょうか。労災上乗せ保険は損害保険であり、自動車保険や火災保険と取扱いは同じとなります。掛け捨て型の保険となるため一般的には全額損金として処理(いわゆる全損処理)して差し支えないと判断されています。

まとめ

労災上乗せ保険について紹介しました。建設業にとって労災事故は切っても切れないもので、経営者の頭を悩ませる事柄です。労災が発生しないように安全管理を徹底することももちろん、従業員に対しては定期的に健康診断を実施、再検査の人には二次健康診断を実施するなど日ごろのケアも重要となります。それでも万が一の事態は起こり得るため、その際の不安を少しでも低減させるために労災上乗せ保険を検討してみてはいかがでしょうか。

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