所得補償保険とは|必要性、補償内容、注意点など基礎知識

所得補償保険の加入を検討する場合は、社会保障制度による補償と貯蓄額、医療保険や入院保険など、医療費支出をカバーする保険と合わせて検討することが重要です。また、就業不能となった場合の医療費以外の支出の有無も重要なポイントとなります。
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1.はじめに

思いがけないケガや病気への備えは十分ですか?よく聞く保険セールスのセリフです。所得補償保険は、万一、ケガや病気で働けなくなった場合の収入が途切れるリスクをカバーする保険です。医療保険・入院保険などは、「医療費」などの支出を補償する目的ですが、似通った面もあります。どれを優先すべきでしょうか?考え方と所得補償保険の検討方法を解説します。

2.所得補償保険の概要

所得補償保険は、病気やケガで働くことが不可能になった場合に「収入が得られない」というリスクに備える損害保険です。保険でカバーされるのは、基本的には月単位の収入額です。医療保険や入院保険、傷害保険が主に医療費や入院費用などの病気やケガによる支出を補償対象としている点は対照的でありながら、家計の収支をカバーする性格は似ています。所得補償保険の保険料は、職業と補償金額、補償期間で決まります。加入・検討のポイントは、病気やケガによる働けない期間とその間の生活費や医療費などの収支を検討することです。

3.所得補償保険のメリット

がん、心筋こうそく、脳卒中をはじめとする病気やケガによる「就業不能」が幅広く補償されます。入院はもちろん、自宅療養中も補償されます。加入手続きに際し、医師の診査は基本的に不要であるため、契約の手続きが簡単です。保険料面では、無事故戻しがあります。保険期間終了時、保険期間中の事故(病気やケガによる就業不能)が無かった場合に、保険料の20%が返還されます。(無事故戻しがない契約タイプもあります。)

4.保険金が支払われる場合

被保険者が、日本国内または国外において、保険期間中にケガまたは病気を被り、その直接の結果として、医師による就業不能の診断があった場合に、被保険者が被る損害に対して保険金を支払います。

4-1.支払われる保険金の計算方法

被保険者が継続して就業不能である期間から、あらかじめ設定した支払対象外期間 (免責期間とも呼ばれます。7日が標準的)を越えた期間(保険金をお支払いする期間)について、支払い対象期間(通常、1年間または2年間、てん補期間とも呼ばれます。)を限度に保険金が支払われます。保険金額は月額で設定されるため、1ヶ月に満たない場合また1ヶ月未満の端数がある場合は、1ヶ月を30日とる日割り計算によって支払われます。

4-2.支払い対象外期間(免責期間)

保険金が支払われる就業不能の状態となってから、保険金を支払う対象の期日までの一定の期間が設定されます。通常、7日間が一般的で、4日間または14日間などがあります。

この期間が長いほど保険料は安くなります。

4-3.支払い対象期間

保険金を支払う最長期間のことで、てん補期間とも呼ばれます。1年間、または2年間です。

4-4.保険金額(月額補償額)の設定の仕方

保険金額は、被保険者の加入している公的医療保険制度に応じて、下記の算式にあてはめて月額で設定します。なお、設定できる保険金額には限度があり、国民健康保険(個人事業者)85%、健康保険(会社員・給与所得者)50%、共済組合(公務員)40%以下とされます。これらは、被保険者が保険金を受け取る場合に、公的医療保険制度が被保険者に提供する傷病手当等を勘案して設定される仕組みです。つまり、被保険者が病気やケガによる就業不能時に受け取る傷病手当と保険金の合計額が、就業時の収入を上回ることを防止するためです。(なお、限度額は被保険者の職業によっても異なります。また、保険会社によっても異なります。)

5.保険期間

1年間です。(2年以上の長期契約取り扱いもありますが、希少です。)

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6.所得補償保険についての検討のポイント

まず、ケガや病気により働くことができなくなった場合に、収入と支出がどうなるか?を具体的にイメージすることからはじめましょう。

6-1.社会保障制度の内容を確認

6-1-1.会社員(健康保険)の場合

会社員の場合は健康保険により傷病手当が支給されます。支給要件は下記のとおりです。

  1. 業務外の事由による傷病であること。
    業務が原因となった病気・ケガ、通勤途上のケガは労働者災害補償保険(労災保険)が適用されるため、健康保険は療養費、傷病手当等すべて給付されません。
  2. 療養中であること。
    健康保険で診療を受けることができる範囲内の療養であれば、実際に保険給付として受けた療養でなくてもよく、自費での診療や、自宅での静養でも支給されます。
  3. 労務に服することができないこと。
    被保険者が病気やケガにより業務に従事できないことを指します。
  4. 休業期間が連続して3日間を越える事。
    連続する最初の3日間は待期期間として傷病手当金は支給されません。具体的には、「休休休休」の場合、3日間は完成します。「休出休休」は、休が3日、連続していないため未完成となります。この3日間超は同一の傷病について1回完成することでOKです。したがいまして3日間が完成し傷病手当金をいったん受給した後に、職場復帰し、その後、再び同一傷病について就業不能となった場合には再び3日を完成させる必要はありません。

支給額は下記となります。

1日につき、「傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した12月間の各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2に相当する額」が給付されます。支給期間は、現実の支給開始日から起算して最長1年6ヶ月です。

会社員(健康保険)の場合、仕事できない状態が連続して3日間と超えると1年半は傷病手当で給料の2/3は、支給されます。ただし、有給休暇を取得した場合は、一般的には傷病手当の給付対象とはなりません。(例外:有給休暇による給与水準が、傷病手当の給付額を下回る場合は、その差額が支給対象となり得ます。)

上記の通り、1年6ヶ月の間の傷病手当があり、さらに会社によって別途有給休暇制度もあり、雇用上の補償が一定ありますので、病気やケガによるによる家計の収支に関し、別途、保険を手当てする場合、医療保険や入院保険によって医療支出をカバーすることを優先すべきと考えられます。また、所得補償保険を検討する場合は、傷病手当の給付期間の限度を勘案した保険設計、つまり、支払い対象外期間(免責期間)をなるべく長くすることで、傷病給付との重複を避け、保険料を割安にする方法も検討しましょう。

6-1-2.個人事業者の場合

個人事業者などの国民健康保険には上記の傷病手当給付や有給休暇などの制度が存在しなしため、会社員よりも病気やケガによる就業不能、家計収支の悪化について保険による備えを行なう必要があると考えられます。もちろん医療保険や入院保険で、療養に関わる医療費の自己負担(支出)に対する備えも必要ですが、貯蓄等が十分でない場合は、就業不能よる収入減に備える所得補償保険は加入を検討に値するでしょう。特に個人事業主の場合、就業不能の期間中に、ご本人の収入が無くなる、または減少することに加えて、事業の固定費(例:店舗・事務所の賃貸料や、固定給で従業者を雇用している、など)が発生する場合、より一層、加入意義があります。所得補償保険の保険金額を可能な限り高く、さらに医療保険の日額についても可能な限り高くしておくことが望まれます。ただし、いずれも保険会社ごとに加入限度額があります。

6-2.加入方法

6-2-1.会社員の場合

上記の健康保険の傷病手当があるため、加入の優先順位は高くはないと思われますが、加入を検討する場合は、勤務先における団体契約の募集の有無を確認しましょう。所得補償保険と団体長期障害所得補償保険の両方がある場合は、傷病手当との関係から団体長期障害所得補償保険の方がコスト面と補償効率の両方で優位と言えます。

6-2-2.個人事業主の場合

個人事業主は会社員の傷病手当に上記の通り該当する補償がないため、所得補償保険のニーズは高いと言えます。加入方法としては保険会社や代理店で個別加入する方法が一般的ですが、団体契約の保険料は、個別契約よりも安くなりますので、団体契約をおすすめします。代表的な団体契約で個人事業主が加入できる契約として、日本商工会議所が団体募集を行っている三井住友海上保険の休業補償プランがあります。(商工会議所の会員は、個人事業者も会員となることができます。)この団体契約は無事故戻しがありません。しかしながら保険料の割引率は60%以上ありますので、一般契約で無事故戻しを受けるよりも、安くなります。また、商工会議所の会員でない場合で、あらたに会員となって保険に加入する場合でも、商工会議所の会費と団体契約の保険料を併せた金額の方が、中長期では安くなるでしょう。さらに補償面も優れていて、一般的には免責となる「うつ病」を含む精神障害や地震によるケガも対象としていますので、安心です。なお、デメリットを上がるなら保険設計の自由度がやや劣ることがあげられます。

7.保険料

保険料は、被保険者の職業別の1~3の基本級別と年齢、免責期間(支払い対象外期間)、特約の付帯の有無により決定されます。基本級別は職業の具体的な内容により詳細に類別されますが、おおまかには下記のような類別になります。

職業により基本級別のあらまし

1級 事務職、医師、小売店、飲食店(調理しない)、弁護士など

2級 理容師、調理人、デザイナー、農耕作業者、看護師などの軽作業者、

3級 製造業、タクシードライバー 警備員、技術者など常に作業を伴う職業

保険料例

契約条件

補償月額20万円 保険期間1年 てん補限度期間1年 免責7日

無事故戻しなし

単位:円

年齢群(歳) 1級 2級 3級
個別契約 35~39 29,400 33,900 40,000
45~49 43,900 50,500 59,100
団体契約 35~39 16,100 18,500 21,500
45~49 23,500 27,200 32,000

団体契約は、天才危険担保特約、精神障害担保特約が付帯されており、団体契約よりも補償範囲が広くなっています。

8.留意点(注意すべき事項)

  • 原因または時が異なって発生した複数の身体障害により就業不能期間が重複する場合は、重複する期間に対して、保険金は重複して支払われることはありません。
  • 対象期間(1年)を経過した後に発生した就業不能に対しては、保険金はしはらわれません。
  • 支払対象外期間(例:7日間)を超える就業不能が終了した後、その就業不能の原因となった身体障害によって、6か月以内に就業不能が再発した場合は、後の就業不能は前の就業不能と同一の就業不能とされます。ただし、就業不能が終了した日からその日を含めて6か月を経過した日の翌日以降に被保険者が再び就業不能になった場合は、後の就業不能は前の就業不能とは異なった就業不能とみなされ、新たに支払対象外期間および対象期間が適用されます。
  • 初年度契約の締結の後、継続契約において保険金の支払条件の変更があって、次の①または②の保険金の額に差異が生じる場合、いずれか低い金額が支払われます。ただし、身体障害を被った時から起算して1年を経過した後に就業不能となった場合を除きます。
    ①被保険者が身体障害を被った時の支払条件により算出された保険金の額
    ②被保険者が就業不能になった時の支払条件により算出された保険金の額
  • 次の場合、保険金が減額されることがあります。
    ①他の身体障害(病気またはケガ)の影響等があった場合
    ②職業を変更された場合の通知と、それに伴う追加保険料のお支払いがなかった場合
    ③申込書に記入された年齢に誤りがあり、追加保険料のお支払いが必要となる場合
    ④他の保険契約等がある場合 など

9.保険金を支払わない場合(免責)

就業不能の原因となった身体障害(病気やケガ)が、下記の事由によるものである場合は、保険金は支払われません。

  1. 故意または重大な過失
  2. 自殺行為、犯罪行為または闘争行為
  3. 麻薬、大麻、あへん、覚せい剤、シンナー等の使用
  4. 妊娠、出産、早産または流産
  5. 戦争、外国の武力行使、暴動、核燃料物質等によるもの
  6. 頸(けい)部症候群(いわゆる「むちうち症」)、腰痛等で医学的他覚所見のないもの など
  7. 自動車または原動機付自転車の無資格運転、酒気を帯びた状態での運転
  8. 地震、噴火またはこれらによる津波など
    また、下記に該当する就業不能に対しては、保険の対象となりません。
  9. 精神病性障害、血管性認知症、知的障害、人格障害、アルコール依存および薬物依存等の精神障害を被り、これを原因として生じた就業不能
  10. 妊娠または出産を原因とした就業不能

なお、(8)の地震・噴火・津波によるケガは、天災危険補償特約を付帯した場合は、補償されます。また、(9)の精神病性障害等については、精神障害補償特約を付帯することで厚生労働省大臣官房統計情報部が定める分類コードF00からF09およびF20からF99に規定された障害は補償対象となります。この特約付帯した場合でも、アルコールや薬物への依存が原因の精神障害は補償されません。

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10.特約

10-1.家事従事者特約

被保険者(保険の対象となる方)が、日本国内または国外において、保険期間中に身体障害(病気またはケガ)を被り、その身体障害の治療のため入院していることにより家事労働に全く従事できない状態である場合に、保険金をお支払いします。
(注)家事従事者特約における被保険者は、主として被保険者の家庭において、炊事、掃除、洗濯および育児等の家事を行っている方(家事従事者)にかぎります。

10-2.特定疾病等対象外特約について

告知書で告知していただいた内容によっては、保険会社が保険引き受けを断る、あるいは特別な条件付きの契約なる場合があります。特別な条件について、契約者・被保険者が承諾できない場合は、加入できないこととなります。特別な条件とは、「特定疾病等対象外特約」を付帯することで、特定の疾病群について補償対象外とする契約を指します。

その例としては、保険加入前の告知書において、持病である腰痛等「腰・脊椎の疾病」について告知された場合、腰・脊椎の疾病はすべて補償の対象外とする条件をつけた契約とすることになります。

なお、いったん「特定疾病等対象外特約」をセットされた条件でのご契約を継続される場合、その継続契約においても、原則として「特定疾病等対象外特約」も継続付帯することになります。ただし、ご継続時に補償対象外とする疾病群が完治してから1年以上経過されている場合は、保険会社の判断により、継続契約の保険始期から「特定疾病等対象外特約」を削除できることがあります。

(削除できないこともあります。)

10-3.精神障害補償特約

通常、保険金の支払い対象とならない精神障害を、追加補償する特約です。追加対象となる精神障害としては アルツハイマー病の認知症、 血管性認知症、 器質性健忘症候群、脳の損傷及び機能不全並びに身体疾患によるその他の精神障、うつ病、統合失調症、持続性妄想性障害など約100種の精神障害です。ただし、アルコールや薬物への依存が原因である精神障害は対象となりません。

10-4.傷害特約

被保険者がケガによって後遺障害を負った場合に、後遺障害級別に応じた一時金を支払う特約です。この一時金は、就業不能による月額保険金額の補償とは別に支払われます。

10-5.天災危険担保特約

通常、保険金を支払い対象とならない地震・噴火・津波によるケガによる就業不能による損害について、追加補償する特約です。なお、傷害特約と共に付帯された場合は、地震・噴火・津波によるケガで後遺障害を負った場合も一時金が支払われます。

10-6.入院のみ担保特約

所得補償保険は、「医師による就業不能の診断」が保険支払いの要件ですが、この特約は「入院すること」という要件を追加する特約です。保険金支払い要件が、「医師による就業不能の診断が下され、療養に入院を要する」と限定されるため、保険料は安くなります。就業不能の容態にあるものの、自宅療養中である場合は、保険金は支払われません。

11.まとめ

所得補償保険の加入を検討する場合は、必ず社会保険制度に公的補償と月例の収入額(給与額)を確認しましょう。それによって、加入できる保険金額の限度も決まりますし、加入すべき保険金額も見えてきます。また、所得補償保険を単独で検討するのではなく、他の保険(医療保険や長期障害所得補償保険など)との比較・検討も重要です。

*「所得補償保険と医療保険、長期障害所得補償保険、収入保障保険の違い」のページもご確認ください。

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