取引信用保険とは|補償内容・必要性などわかりやすく解説

取引信用保険は、信用リスクを一定カバーすることできる企業の事業活動を下支えする保険です。保険の信用保証分野では稀に普及してきている保険です。これまで困難に近かった回収不能債権の対策の1つとして、検討する価値がある保険です。
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1.はじめに

取引信用保険は、企業の資金繰りの安定化に寄与する保険として、ここ10年で急速に普及している損害保険です。しかしながら、その認知度はまだまだ低い保険でもあります。対象となる業種や債権が限定されている点など、重要なポイントをご説明します。

2.取引信用保険の概要

取引信用保険は、被保険者の取引先が、法的整理の発生または被保険者からの購入代金等の支払債務を履行しない等により被保険者が被る損害に対して保険金を支払います。つまり、被保険者の取引先の倒産、履行遅滞などによる回収不能債権を一定割合、保険金でカバーすることができます。企業が取引先の信用リスクを一定コントロールするための保険と言えます。

3.取引信用保険のメリット

取引信用保険のメリットを整理すると、下記の4つを挙げることが出来ます。

3-1.貸倒れ損失の確実な回収

貸倒金額の一定部分を保険金として回収できることで、貸倒発生時の影響を軽減、資金繰り安定化に繋がります。

3-2.与信管理の充実・強化

加入保険会社の情報提供により、取引先に対する与信管理の強化することができます。

3-3.損失の平準化

毎期、バラツキのある貸倒損失を保険料として負担することで、損失をコスト化し平準化できます。

3-4.信用力の向上

売上債権の保全がなされ、取引先(債権者)に対する被保険者の信用力の向上が期待できます。

4.取引信用保険に加入できる業種

取引信用保険の対象となる業種(被保険者になれる業種)は多岐に亘り、下記の「対象とならない業種」に該当しない業種になります。

農林漁業、鉱業、出版業、小売業、金融業、リース業、不動産業、広告業、サービス業、公務業、建材業、パチンコ関連など(これ以外でも加入できないこともあります。)

5.取引信用保険の対象となる債権

取引信用保険はすべての債権を補償するわけはなく、下記の条件に該当することが必要です。

5-1.対象なる債権の種類

被保険者が取引先と締結した継続的売買契約(*)に基づく売上債権

(*スポット的な取引ではなく、「売買取引基本契約」など、継続的に発生する個別取引について、あらかじめ決済条件など基本的な条件を取り決めた契約をいいます。)

5-2.対象となる債権の発生時期

債権の発生が保険期間開始後であることが条件です。(債権発生ベースと呼ばれます。)保険期間開始時点ですでに発生している債権は補償対象外となります。

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6.対象となる取引先

原則として、対象とする取引先は継続的売買契約を締結しているすべてを対象とします。ただし、取引先が対象とすることができない要件する場合、または保険会社の審査の結果、対象とすることが出来ない取引は除かれます。なお、取引先を特例的に限定する場合は、保険会社との協議により、一定の条件で取引先を限定することにより可能です。

6-1.対象とすることが出来ない取引先

個人事業者、海外の取引先、国・政府・地方公共団体とその関連、被保険者の関係企業、パチンコ関連事業などです。保険会社により違いがあります。

6-2.一定の条件による取引先の限定方法の例

⓵債権残高(売上高)○○万円以上、⓶債権残高(売上高)△△万円以下、⓷債権残高(売上高)▲▲万円以上□□万円以下、⓸被保険者の事業のうち一部の事業のみを選び、その取引先で⓵~⓷のような条件に該当する取引先

6-3.取引先限定に関する注意点

被保険者が任意に選択した取引先を対象とすることはできません。これは、保険業界で「逆選択」と呼ばれる保険のかけ方に該当し、被保険者が取引先の中から信用リスク高いと感じる取引先を恣意的に選択して加入することを不可としています。これが可能になると、保険として成り立たず、取引信用保険の販売は不可能になるためにです。

6-4.対象となる取引先(保険会社が取引先審査を行う際のポイント)

  • 取引信用保険が対象にしている継続的売買契約を締結している取引先であること。
  • 日本国籍の取引先であること
  • 官公庁(国、地方公共団体またはこれらに準じる機関)でないこと。ただし、第三セクターは対象としています。(たたし、審査はあります。)
  • 被保険者の関係会社(会社法および金融商品取引法上の(連結)親会社、(連結)子会社、(連結)関連会社)でないこと。
  • 代金決済期間(締後決済期間)が180日以内であること。
  • 保険加入時点で債務不履行が発生していないこと

7.保険金を支払う場合・事故例

取引信用保険は、取引先が被保険者と締結した売買契約に基づく債務を履行しないときに保険金が支払われます。下記のようなケースが該当します。

⓵取引先に破産手続の開始、民事再生手続の開始、会社更生手続の開始または特別清算の開始の申立があった場合

⓶取引先が取引金融機関または手形交換所から取引停止処分を受けた場合

⓷取引先の財産について強制換価手続が開始された場合、仮差押命令が発せられた場合、または保全差押としての通知が発せられた場合

⓸取引先の相続人の全員が相続の限定承認もしくは相続の放棄の申述をした場合または財産分離の請求がなされた場合

⓹取引先がその財産について管理人を置かないままその住所または居所を去った後1年間を経過してもその債務者の生存が確かめられない場合 など

8.保険金の算出方法

取引信用保険では、被保険者の損害額を下記の算式による金額と規定しています。

未回収債権金額 + 事故発生日までの遅延利息 ― 反対債務および回収金

この損害額は事故(取引先の破産手続の開始、民事再生手続の開始など)発生日における金額を言います。

支払われる保険金は、事故発生日における損害額に縮小支払割合(通常95%)を乗じた金額と、予め取り決めた取引先ごとの支払限度額で、いずれか少ない方となります。

9.保険期間

保険期間は1年です。

10.契約方式

一般契約と団体契約があります。

団体契約は、全国中小企業団体中央会などが代表的で、その会員であることが条件となります。団体契約は、一般的な大企業以外の企業については大幅に安いため、普及しています。

11.入手続きと保険料

11-1.加入手続きの手順

⓵保険で対象とする取引先の選定条件を決定します。原則、継続的売買契約を締結しているすべての取引先ですが、限定する場合は保険会社と限定方法を協議します。

⓶決定したお取引先を「告知書」に記入し、保険会社(代理店)提出します。告知書には、取引先企業名ごとに債券金額なども記載し、取引先ごとに保険の対象とするか否か保険会社の審査を受ける手続きとなります。

⓷審査をクリアした取引先ごとに支払限度額を決定します。

この手順で保険会社から見積もりの提示を受け取ることになります。

11-2.保険料の例

取引信用保険の保険料は、取引先それぞれの信用度合いにより保険料水準が異なります。したがって、取引先の数や年間売上高、債権額合計、支払限度額などの契約条件が同一であっても保険料は異なります。下記はあくまで加入例です。

加入例1:卸売業の場合

年間売上高:5億円 取引先数13社 取引先ごとの債権額合計3,000万円

契約上の支払限度額 2,300万円 縮小支払割合 95%

保険料 約70万円

 

加入例2:商社

年間売上高:4億円 取引先数20社 取引先ごとの債権額合計 1億円

契約上の支払限度額 1億円

保険料 約100万円

 

上記の加入例は、2例ともに全国中小企業団体中央会の団体契約です。

なお、保険料は一時払いのみです。

取引先を追加する場合は、年間保険料を加入期間に応じて月割で算出した額が保険料となります。

12.主な免責(保険金を支払わない場合)

⓵保険契約者、被保険者またはこれらの者の代理人の故意もしくは重大な過失または法令違反によって生じた損害

⓶戦争、外国の武力行使、革命、政権奪取、内乱、武装反乱その他これらに類似の事変または暴動に基づく社会的もしくは経済的混乱によって生じた損害

⓷地震、噴火、津波、洪水、高潮または台風、核燃料物質または核燃料物質によって汚染された物の放射性、爆発性その他に基づく社会的もしくは経済的混乱によって生じた損害

⓸被保険者が未成年者その他の制限行為能力者と売買契約を締結した場合において、これらの者の法定代理人その他の者の追認を受ける時までの間に生じた損害

⓹被保険者の提供する商品に暇庇(かし)があったことによって生じた損害

⓺被保険者が、取引先が債務を履行していないことを知りながら、あるいは、取引先が取引信用保険で保険金が支払われる場合に該当する状態であることを知りながら、その取引先と締結した売買契約について生じた損害

⓼債務の弁済期日から起算して1か月を経過してもその債務を履行しない取引先に対して、債務の弁済期日から起算して1か月を経過した日の翌日以降に商品を引き渡したことによって生じた損害 など

13.まとめ

企業にとって、取引先の信用リスクは事業拡大に伴って大きくなるもので、情報収集の限界から有効な対策が講じにくい課題ですが、取引信用保険の活用により一定のリスクコントロールが可能となります。業種制限や対象となる売買契約や取引先審査などのハードルがクリアすることが必要ですが、検討の価値があります。

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