業務災害補償保険とは|補償内容・必要性などわかりやすく解説

業務災害補償保険は、労災に関わるリスクを総合的に補償する保険で、労働災害に関する使用者としての賠償責任と従業員の障害(ケガと疾病)を補償します。従来からある傷害保険、労災総合保険(使用者賠償責任保険、法定外補償保険)の補償機能やメリットを統合している点が画期的です。
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1.はじめに

業務災害補償保険は保険商品としては、比較的あたらしい類で、従来の保険商品のコストや補償面のデメリットを見直した画期的な商品ですが、やや難解な内容です。メリットや加入の際の注意点をまとめます。新規に加入する場合は、既加入の保険契約と補償内容が重複する可能性があるため、注意が必要です。

2.基本的な仕組み

基本的な補償内容は、使用者賠償責任補償と従業員等の労働災害補償の2本立てです。1つめの柱となる使用者賠償責任補償は、労災総合保険の使用者賠償責任保険をベースにしいますが、特約を付帯することでハラスメント系の賠償事案も補償できる点が特徴です。2つめの柱である労働災害補償については、労災総合保険の法定外補償と傷害保険のハイブリッド的に設計していることが特徴です。具体的には、保険金の支払いについて傷害保険の支払方法を準用することで、よりスピーディな保険金支払いを実現しています。また、被用者数(被保険者数)の特定方法については売上高から業種に応じた平均賃金を根拠として(労災総合保険の総支払賃金から平均被用者数を算出する方法を準用)、被用者数を割り出す仕組みを採用しています。これにより契約時に従業員等の名簿の提出を不要とするなど、手続きの簡便化を実現しています。(実際の在籍人数から保険料を算出する契約方式もあります。)そのため、保険期間の中途における被用者の交替、増加について手続きが不要となり、契約メンテナンス面でも簡便です。

3.特徴とメリット(特約を含む)

3-1.リーズナブルな保険料

事業内容(業種)と売上高で保険料を算出することで、合理性・公平性の観点からリーズナブルなコストを実現しています。

3-2.補償対象となる被用者の範囲が広く、補償範囲も広い

被用者の補償については、パート、アルバイトを含む全従業員、業態によっては建設業下請負人、運送業の傭車運転者、派遣労働者、構内下請負人など、幅広く補償します。また社内・社外に関わらず補償し、通勤途上も補償します。また被用者の労災補償に加えて、労働災害に関する使用者の賠償責任も補償しますので、経営リスクの備えにもなります。

3-3.損害保険でありながら疾病も対象

労災についいて、ケガのみならず、政府労災で認定された精神障害、脳・心疾患(うつ病)などの疾病分野も補償します。(労災認定身体障害追加補償特約)

3-4.地震についても補償可能

業務中の天災(地震・噴火・津波等)によるケガ等も補償(オプション)

3-5.保険金の支払いがスピーディ

保険金は政府労災保険の認定を待たずに支払われます。(政府労災の加入は必要ですが、政府労災の認定は、保険金の支払条件ではありません。)保険金は事業者に支払うことも可能です。(災害補償規程などに基づき補償対象者やその遺族に対して給付する補償金として事業者に保険金が支払われます。)ただし、精神障害、脳・心疾患による補償保険金のお支払いは政府労災の認定が必要です。また使用者賠償責任補償については、政府労災の認定を待つ場合もあります。

3-6.使用者としての賠償責任を幅広く補償

雇用慣行賠償責任補償特約を付帯することでパワーハラスメントやセクシャルハラスメント、雇用上の差別など、事業者、役員、使用人の法律上の賠償責任を補償すます。

3-7.役員個人の賠償責任も補償

事業者の賠償責任に加えて役員個人の賠償責任についても補償します。

・建設業の場合は経営事項審査(W1)で15ポイントの加点が可能です。

「業務災害補償プラン」は、経営事項審査の加点対象となる「法定外労働災害補償制度」の要件を満たしており、審査項目の「W1(労働福祉の状況)」において加点対象となります。

3-8.多彩な特約が準備されており、幅広いニーズに対応した保険設計が可能です。

特約が多数あり、さらに幅広い補償を設計することも可能です。ただし、特約の内容は保険会社によって異なります。

例1:就業中に該当しない日常生活における事故も補償

例2:被用者のがんによる休業に関わる事業者の負担(被用者の職場復帰支援費用など)を補償、など

3-9.経営事項審査の加点対象

労働災害のリスクの比較的高い業種である建設業については、業務災害補償保険は、経営事項審査の審査項目に定める「法定外労働災害補償制度の加入」に該当するため、「労働福祉の状況(W1)」において15ポイントの加点評価が得られます。ただし、補償内容について所定の要件(死亡補償保険金および後遺障害補償保険金をともに補償すること等)をクリアすることが必要です、)

4.対象事業者・業種

特に制限はありませんが、政府労災に加入していることが要件となります。また、団体契約の場合、その団体の構成員・会員であることが必要です。例えば、商工会議所団体契約であれば、商工会議所会員であることが必要です。事業者は個人・法人とも対象となります。

5.保険期間

1年です。団体契約の場合、中途加入も可能です。

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6.契約方式

一般契約と団体契約があります。団体契約は日本商工会議所が代表的で、その会員であることが条件となります。団体契約は、一般的な大企業以外の企業については大幅に安い(40%~50%程度)ため、普及しています。

7.保険金額と保険料例

契約方式 日本商工会議所の団体契約

死亡・後遺障害補償保険金支払限度額 1,000万円

入院・手術補償保険金支払限度日額  5,000円

通院補償保険金支払限度日額     3,000円

使用者賠償責任補償         1名・1災害1億円、

特約:労災認定身体障害追加補償特約、コンサルティング費用補償特約、雇用慣行賠償責任補償特約1,000万円、(天災危険担保特約なし)

適用割引:損害率による割引30%、被保険者数割引20%

なお、保険料算出の基礎は、直近の会計年度の年間売上高です。保険料は、確定保険料であり、保険期間終了後の確定精算はありません。

 

加入例1:建築事業(既設建築物設備工事業を除く)

年間売上高5000万円の場合、年間保険料 約125,000円

1億円の場合、年間保険料 約188,000円

加入例2:金属製品製造加工業

年間売上高5000万円の場合、年間保険料 約168,000円

1億円の場合、年間保険料 約257,000円

 

加入例3:貨物取扱事業(港湾貨物取扱事業及び港湾荷役業を除く)

年間売上高5000万円の場合、年間保険料 約163,000円

1億円の場合、年間保険料 約257,000円

8.支払われる保険金の種類

 

8-1.死亡補償保険金

従業員など被用者が、業務に従事している間に、傷害または身体障害を被り、事故の発生の日からその日を含めて180日以内に死亡した場合に保険金が支払われます。なお、対象となる身体障害には、熱および光線の作用による障害(日射病、熱射病)、気圧または水圧の作用による障害(潜函病、減圧病)、低酸素環境への閉じ込めによる障害(酸素欠乏症)、高圧または低圧および気圧の変化への曝露による障害(潜水病)などがあります。

8-2.後遺障害補償保険金

従業員など被用者が、業務に従事している間に身体障害を被り、事故の発生の日からその日を含めて180日以内に後遺障害が生じた場合、1名につき、後遺障害の程度(級別)に応じて、死亡・後遺障害補償保険金支払限度額の100%~4%(所定の級別係数)を限度に保険金が支払われます。

8-3.入院補償保険金

従業員など被用者が、業務に従事している間に身体障害を被り、入院した場合、1名につき、「入院補償保険金支払限度日額×入院した日数」を限度に保険金が支払われます。

8-4.通院補償保険金

従業員など被用者が、業務に従事している間に身体障害を被り、通院した場合に実際に通院した日のみが補償対象となります。1名につき、「通院補償保険金支払限度日×現実に通院した日数」を限度に保険金が支払われます。

8-5.手術補償保険金

従業員など被用者が、業務に従事している間に身体障害を被り、事故の発生の日からその日を含めて180日以内に手術を受けた場合、1名につき、入院中に受けた手術の場合は「入院補償保険金支払限度日額×10」、入院を伴わない手術の場合は「入院補償保険金支払限度日額×5」の金額が保険金として支払われます。

8-6.労災認定身体障害補償保険金(特約)

労災に認定され、給付が決定された場合に限り、主契約(業務災害補償保険普通保険約款)で保険金支払の対象とならない事由として定める自殺行為、脳疾患、疾病または心神喪失等

によって従業員など被用者が被った身体障害によって生じた損害に対して、付帯している特約の保険金に応じて保険金が支払われます。

8-7.使用者賠償責任補償保険金

従業員など被用者が業務中の傷害、または業務が原因の疾病(風土病および職業性疾病を除く)等の身体の障害を被ったことにより、雇用者(被保険者)が法律上の損害賠償責任を負担した場合で、損害賠償責任額が下記の①~③までの金額の合計額を超えたときに、1名および1回の災害につき、「損害賠償責任額- 下記の①~③までの金額の合計額」が保険金として支払われます。ただし支払限度額(保険金額)が限度となります。

①労災保険法等により給付されるべき金額(特別支給金を含みません。)

②自動車損害賠償保障法に基づく責任保険、責任共済または自動車損害賠償保障事

業により支払われるべき金額

③次のいずれかの金額

(ア)被保険者が災害補償規定等を定めている場合は、被保険者がその規定に基づき補償対象者またはその遺族に支払うべき金額

(イ)被保険者が災害補償規定等を定めていない場合は、この特約がセットされた保険契約により支払われる保険金の額

8-8.事業者費用保険金

従業員など被用者が、業務に従事している間に身体障害を被り、死亡補償保険金または後遺障害補償保険金をお支払いする場合で、事故の発生の日からその日を含めて180日以内に事業者(記名被保険者)が実際に負担した次の①~⑤の費用で、かつ、その額および使途が社会通念上妥当な費用に対して、1名につき、支払限度額を限度に保険金が支払われます。

①葬儀費用、香典、花代、弔電費用等の補償対象者の葬儀に関する費用

②遠隔地で事故が発生した際の補償対象者の捜索費用、移送費用等の救援者費用

③事故現場の清掃費用等の復旧費用

④補償対象者の代替のための求人・採用等に要した費用

⑤その他死亡補償保険金または後遺障害補償保険金の支払事由に直接起因して負担した

費用。ただし、「コンサルティング費用補償特約」に規定する費用を除きます。

8-9.コンサルティング費用補償保険金(特約)

従業員など被用者の保険期間中の業務上の事由によるケガまたは病気(業務上の事由

によると疑われる場合を含みます)等で身体の障害を被った場合、または事業者(使用者・被保険者)が、日本国内において従業員などの被用者に対して行った不当行為(差別的行為、ハラスメント、不当解雇等、人格権侵害、不当評価等、説明義務違反、報復的行為 等)に起因して、被用者より保険期間中に被保険者に対して日本国内において損害賠償請求がなされ、法律上の損害賠償金・争訟費用・応訴費用を負担した場合(「雇用慣行賠償責任補償特約」に規定する損害賠償請求がなされた場合)に、その日から180日以内に事業者(被保険者)が保険会社に書面による同意を得て支出した日本国内で行うコンサルティングに関する費用を保険金として支払われます。

8-10.メンタルヘルス対策費用保険金(特約)

政府労災保険で認定されたうつ病などの精神障害(行政の定める分類で判定されます)により休職した従業員等が、職場復帰に向けての対策等にかかった費用が保険金として支払われます。ただし保険会社の書面による同意を得て支出した費用であることが条件となります。

8-9.雇用慣行賠償責任補償保険金(特約)

被保険者である事業者(使用者)が、日本国内において従業員などの被用者に対して行った不当行為(差別的行為、ハラスメント、不当解雇等、人格権侵害、不当評価等、説明義務違反、報復的行為 等)に起因して、被用者より保険期間中に被保険者に対して日本国内において損害賠償請求がなされ、法律上の損害賠償金・争訟費用・応訴費用を負担した場合に保険金が支払われます。

8-10.医療費用補償保険金(特約)

従業員など被用者が、業務に従事している間に身体障害を被り、治療を受けた場合で、その被用者が、下記のいずれかの費用を負担したとき。ただし、事故の発生の日からその日を含めて365日以内に被用者が負担した費用で、かつ、社会通念上妥当であることが必要です。

  • 治療のために病院・診療所に支払った公的医療保険制度における一部負担金、差額ベッド代、その他病院で要した費用
  • 入院・転院・退院のために要した移送費および交通費
  • 医師の指示により行った治療に関わる費用、薬剤、治療材料、医療器具の費用

8-11.休業補償保険金(特約)

従業員など被用者が、業務に従事している間に身体障害を被り、その直接の結果として保険期間中に、事故の発生の日からその日を含めて180日以内に就業不能となり、その状態

が免責期間を超えて継続した場合に1名につき、「休業補償保険金支払限度日額×就業不能期間の日数」を限度に保険金が支払われます。

8-12.天災危険補償保険金(特約)

地震もしくは噴火またはこれらを原因とする津波により損害が生じた場合に、この特約が付帯された契約(*下記の契約)に従って保険金が支払われます。

*対象となる契約は、死亡補償保険金・後遺障害補償保険金支払特約、入院補償保険金・手術補償保険金支払特約通院補償保険金支払特約、医療費用補償保険金支払特約、休業補償保険金支払特約など

9.主な免責(保険金が支払われない場合)について

業務上(就業中)災害、疾病であっても下記の場合は、保険金が支払われません。特に⓸~⓼は特徴的であり、注意が必要です。

⓵保険契約者もしくは被保険者またはこれらの業務に従事する場所の責任者の故意による損害

⓶地震もしくは噴火またはこれらによる津波による損害(天災危険補償特約のない場合)

⓷戦争、外国の武力行使、革命、政権奪取、内乱、武装反乱その他これらに類似の事変または暴動などによる損害

⓸核燃料物質もしくは核燃料物質によって汚染された物による放射能、その他の有害な特性の作用などによる損害

⓹風土病、職業性疾病等による損害

⓺原因がいかなる場合でも、頸(けい)部症候群(いわゆる「むちうち症」をいいます。)、腰痛またはその他の症状を訴えている場合で、いずれも補償対象者にそれを裏付けるに足りる医学的他覚所見のないもの

⓻入浴中の溺水(水を吸引したことによる窒息をいいます。)

⓼原因がいかなるときでも、誤嚥(えん)(食物、吐物、唾液等が誤って気管内に入ることをいいます。)によって生じた肺炎 等

 

従業員などの被用者等本人が被った身体障害が下記に該当する場合に事業者(被保険者)が被る損害に対しては、保険金は支払われません。

⓵被用者の故意または重大な過失

②被用者の自殺行為

  • 被用者が自動車等の無資格運転、酒気帯び運転または麻薬等を使用して運転している間
  • 被用者の脳疾患、疾病(職業性疾病等は含みません。)または心神喪失(ただし、業務に起因して発生した症状の場合には、保険金は支払われます。)

⑤被用者の妊娠、出産、早産または流産

  • 被用者に対する外科的手術その他の医療処置
  • 被用者が乗用具(自動車または原動機付自転車、モーターボート、ゴーカート、その他これらに類するものをいいます。)を用いて競技等をしている間

⑧被用者が下記の「補償対象外となる運動等」を行っている間   など

10.まとめ

業務災害補償保険は、コストや補償面、契約の手続きやメンテナンス面で、従来商品よりも優れています。新規に加入する場合は、既加入の保険契約と補償内容が重複する可能性があるため、注意が必要です。業務災害補償保険と補償が重複する可能性のある保険は下記の通りです。

労災総合保険(使用者賠償責任保険、法定外補償保険)、団体傷害保険、傷害保険(就業中のみ担保特約)、所得補償保険、これらのセット補償契約など。

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