1.はじめに
請負業者賠償責任保険は、その名の通り、工事業者などの請負業者向けの保険です。第三者に対する法律上の賠償責任を補償する保険は多数ありますが、工事現場における工事や作業の遂行中の事故は、近隣の第三者を巻き込む可能性があり、危険度が高く、保険としてのニーズも高いため、特に普及しています。やや難解な部分もありますので、ポイントを押さえましょう。
2.請負業者賠償責任保険の概要
請負業者賠償責任保険は、工事や作業等請負業務の遂行、または工事や作業を行うための施設の所有・使用または管理に起因して不測の事故が発生し、その結果、第三者の身体や財物を損傷し、被保険者が法律上の賠償責任を負担するとなった、その時に被保険者が支払うべき損害賠償金・争訟費用等を補償する保険です。建設業や工事業などの請負業者は、工事現場において近隣の住宅や施設、道路を通行する人や車両など第三者を巻き込む可能性を完全に排除できない限り、この保険には必ず加入する必要があります。
3.対象となる主な工事・業務
建設工事、土木工事、道路建設、道路舗装工事、機械設備据付・組立工事、各種機械メンテナンス工事、看板据付工事、塗装工事、などの各種工事のほか、清掃作業、荷役作業、引越作業、運送作業なども対象となります。
4.補償の対象となる方(被保険者)
対象となるのは、事業者本人(記名被保険者、法人・個人を問いません)と記名被保険者である事業者の業務に携わっている間の事業者の役員・使用人、事業者の下請負人、下請負人の役員・使用人です。
5.対象となる事故例
- 高所作業中、工事用資材の落下し、通行人にケガを負わせた。
- 足場の倒壊により、第三者の自動車をキズつけた。
- クレーンが倒れ駐車中の自動車を壊した。
- ビル外壁の塗装中にペンキ缶を落とし、通行人の衣服を汚した。
- 資材置場に積んであった材木が崩れ、通行人がケガをした。
6.支払われる保険金の種類
- 法律上の損害賠償金(支払限度額の範囲内、自己負担金を控除した金額)
- 賠償責任に関する訴訟費用・弁護士費用等の争訟費用(上記1の損害賠償金が支払限度額を超える場合は、支払限度額の損害賠償金に対する割合によって支払われます。)
- 求償権の保全・行使等の損害防止軽減費用
- 事故発生時の応急手当等の緊急措置費用
- その他、被害者との交渉に伴い、被保険者と保険会社が取り決めた費用
7.保険の適用地域
法律上の賠償責任を補償する保険であり、その法律は民法と主体とするため、適用地域は日本国内となります。
8.契約方式と保険期間
契約方式は、個別契約方式と年間包括契約方式があります。
8-1.個別契約方式
個別契約方式は、個々の請負業務・工事を対象として契約締結する方式で、保険期間は工事期間(請負期間)となります。保険料は工事の請負金額を基礎に算出し、契約締結時に確定します。
8-2.年間包括方式
年間包括契約方式は、保険期間を1年間として、その保険期間中(1年間)に行われるすべての工事(業務)を対象とします。保険料は1年間の見込完成工事高を基礎に算出し、契約締結時は、暫定保険料とし、保険期間終了(1年経過)後に確定した完成工事高を基礎に確定保険料を算出の上、暫定保険料との差額を精算します。
9.支払限度額(保険金額)と自己負担額、保険料の関係
9-1.支払限度額(保険金額)と自己負担額
支払限度額は、身体賠償と財物賠償のそれぞれに設定します。(身体賠償と財物賠償を共通の支払限度額で設定することも可能で、保険料が割引となります。)
自己負担額は、身体賠償と財物賠償のそれぞれについて、1事故当たりの自己負担額(免責金額を設定します。自己負担額が高いほど、保険料は安くなります。
9-2.保険料
保険料は請負工事または業務の種類によって決定される保険料率、請負金額(売上高または領収金)、支払限度額、自己負担額によって算出されます。保険料率は、工事の種類により大きな幅があり、最小から最大まで10倍程度の差があります。
9-3.支払限度額(保険金額)、自己負担額、保険料の例
例1:ビル建設業、年間包括契約方式、年間完成工事高2億円、自己負担額1,000円(身体・財物共に)保険期間1年間 暫定保険料
身体賠償 | 1名につき | 1億円 |
1事故および保険期間中限度額 | 2億円 | |
対物賠償 | 1事故および保険期間中限度額 | 1億円 |
保険料 | 基本保険料・身体0.35 財物0.12 | 55万円 |
例2:電気設備工事 個別契約方式 請負高1億5千万円、自己負担額0円(身体・財物共に)工事期間7ヵ月 確定保険料
身体賠償 | 1名につき | 5千万円 |
1事故および保険期間中限度額 | 3億円 | |
対物賠償 | 1事故および保険期間中限度額 | 3,000万円 |
保険料 | 基本保険料・身体0.33 財物0.36 | 59万円 |
なお、保険料は保険会社により若干差異があります。
上記は、各種割引、特約付帯による追加保険料はない場合の例です。
10.主な免責事項(保険金を支払わない場合)と注意すべきポイント
10-1.賠償責任保険に共通する免責事項
- 保険契約者または被保険者の故意によって生じた損害賠償責任
- 被保険者と第三者の間に損害賠償に関し特別の約定がある場合において、その約定によって加重された損害賠償責任
- 被保険者と生計を共にする同居の親族に対する損害賠償責任
- 記名被保険者および記名被保険者の使用人等が、記名被保険者の業務に従事中に被った身体の障害に起因する損害賠償責任
- 被保険者が、所有、使用または管理する財物を滅失、破損または汚損した場合においてその財物につき正当な権利を有する者に対して負担する損害賠償責任
- 戦争、外国の武力行使、革命、政権奪取、内乱、武装反乱その他これらに類似の事変もしくは暴動または騒擾、労働争議に起因する損害賠償責任
- 地震、噴火、洪水、津波などの天災に起因する損害賠償責任
- 排気、排水または固体の排出、流出または溢出に起因する損害賠償責任(ただし、不測かつ突発的な事故による ものを除きます。)
- 原子核反応または原子核の崩壊に起因する損害賠償責任
- 石綿または石綿を含む製品の発がん性その他有害な特性に起因する倍賞責任
- 医療行為、はり、きゅう、マッサージ、身体美容・整形、または弁護士、公認会計士、税理士、建築士、司法書士など専門資格を要する業務に起因する倍賞責任
10-2.請負業者賠償責任保険で特有の免責
- 記名被保険者の役員または使用人、記名被保険者の下請負人、記名被保険者の下請負人の役員または使用人が、被保険者として受託財物を損壊したことに起因する賠償責任
- 被保険者またはその下請負人が行う地下工事、基礎工事または土地の掘削工事に伴い発生した土地の沈下・隆起・移動・振動または土砂崩れ、土地の軟弱化または土砂の流出・流入、地下水の増減などに起因する損害賠償責任
- 自動車・原動機付自転車、航空機、所有、使用または管理(貨物の積込みまたは積卸し作業を除きます。)起因する賠償責任
- じんあいまたは騒音に起因する賠償責任
- 被保険者が行うLPガス販売業務の遂行(LPガス販売業務のための事業所施設の所有、使用または管理を含みます。)に起因して生じた損害
なお、請負業務の完了後に発生した事故については生産物賠償責任保険の分野となり、請負業者賠償責任保険では対象となりません。
11.主な特約
請負業者賠償責任保険の免責(上記9)の中には、工事現場の環境や請負契約の内容によっては特に補償ニーズが高いリスクも含まれます。そのため、特約条項は、通常契約で免責になっているリスクを補償するものがほとんどです。
11-1.交差責任担保特約
請負業者賠償責任保険の被保険者相互間の事故に起因する賠償責任は、通常、免責に該当しますが、この特約の付帯により、その賠償責任を補償します。なお、請負業者賠償責任保険の被保険者には、発注者を含めることも可能であり、その場合、この特約で対象となる被保険者は、発注者、元請業者、下請業者となり、複数の下請業者がある場合の下請業者間の事故も補償されます。交差責任の被保険者と補償される事故の形態については、やや難解になるため、加入前に保険会社に確認を取りましょう。
11-2.作業対象物補償特約
作業対象物の損壊について、被保険者が法律上の賠償責任を負担することによって被る損害を補償します。なお、作業の対象物であって、所有財物や受託財物は含まれません。
11-3.借用財物損壊補償特約(リースレンタル財物損壊補償特約)
被保険者が請負業者賠償責任保険を締結する業務の遂行のために、使用または管理するリース・レンタル財物の損壊によって、リース・レンタル財物について正当な権利を有する者に対して法律上の賠償責任を負担することによって被る損害を補償します。
11-4.支給財物損壊補償特約
支給財物の損壊について、被保険者が支給財物について正当な権利を有する者に対して法律上の賠償責任を負担することによって被る損害を補償します。
11-5.管理財物損壊補償特約
被保険者の管理下にある財物の損壊、紛失または盗難などによって被保険者が、その財物に対して正当な権利を有する者に対して、法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害に対して、保険金をお支払いします。
11-6.工事遅延損害補償
請負業者賠償責任保険で補償される事故が発生し、保険金が支払われる場合に、対象工事が履行期日の翌日から起算して6日以上遅延したことにより、被保険者が発注者に対して法律上の遅延損害賠償金を負担する事によって被る損害を補償します。
11-7.地盤崩壊危険補償特約
被保険者の行う地下工事、基礎工事または土地の掘削工事に伴う、土地の沈下・土砂崩れ、地下水の増減などに起因して、土地、土地の工作物など損壊したなどの損害が発生ししたことについて、被保険者が法律上の賠償責任を負担することによって被る損害を補償します。
なお、保険会社によって、特約の名称、補償する内容に違いがありますので、実際の契約締結に際しては、個別に確認を行いましょう。
12.まとめ
請負業者賠償責任保険は工事業者、清掃・メンテナンス業者、引越業者などの請負業者にとって必携の保険です。しかしながら、被保険者や免責、特約などは内容がやや難解なため、加入手続きは、確認しながら慎重にすすめましょう。