1.はじめに
組立保険は、工事関係の損害保険の中では、認知度の低い保険ですが、機械や設備・装置等の工事を請負う事業者にとっては、重要な保険です。また総合建設業で多種多様な工事を請負う事業者は、建設工事保険等との相違点を把握しておくことも必要でしょう。詳しくご説明します。
2.組立保険の概要
組立保険は、機械・設備などの据付・組立工事を対象とし、工事の着工から完成引渡しまでの間に発生した不測かつ突発的な事故によって工事対象物に生じた損害について、損害発生直前の状態に復旧するために要する費用を補償する保険です。
3.対象となる工事、対象物(保険の目的)
3-1.対象となる工事
この保険は、機械、機械設備、装置などの据付・組立を主体とする工事を対象としています。
- 建物の内・外装工事、付帯設備(冷暖房・給排水・電気・ガス設備等)の工事
- 鋼構造物の建設工事
- 各種の機械、機械設備、装置の据付・組立工事
- 複数の機械、機械設備、装置が集まった設備一式の工事
- 工場、プラント、発電所などの建設における設備―式の工事
- 各種の機械、機械設備、装置の据付・組立工事
なお、建物の建築(増築・改築・改修工事を含みます。)を主体とする工事には建設工事保険、土木工事を主体とする工事には土木工事保険がそれぞれ対応しており、1つの請負工事の中で各種工事が混在する場合は、もっとも主要な工事目的物から判断することになります。
3-2.保険の目的の範囲
- 工事の目的物(工事の対象となっている機械、機械設備、装置など)
- 当該工事の仮工事の目的物(支保工、型枠工、支持枠工、足場工、土留工など)と当該工事のために仮設される工事用仮設物(電気配線、配管、電話・伝令設備、照明設備など ※当該工事のための専用物に限ります。)とその資材
- 当該工事専用の現場事務所、宿舎、倉庫その他の工事用仮設建物およびこれらに収容されている什器・備品(家具、衣類、寝具、事務用具および非常用具に限ります。工具などは含まれません。)
- 工事用材料および工事用仮設材
3-2-1.工事の目的物に関する注意点
工事の目的物は、新たに据付・組立などを行う「物」そのもののことで、請負契約上、完成後に引渡しをする工事物件(請負契約のない工事の場合は、完成させることを目的とする工事物件)を指します。据付・組立作業などに伴い、既設建物の壁・天井や既設の機械・装置などに作業を加える場合でも、既設建物の壁・天井や既設の機械・装置などは「工事の目的物」に含まれません。
3-3.保険の目的に含まれないもの
- 据付機械設備等の工事用仮設備(据付費および付帯設備工事費を含みます。)、工事用機械・器具・工具
- 航空機、船舶または水上運搬用具、機関車、自動車その他の車両
- 設計図書、証書、帳簿、通貨、有価証券その他これらに類する物
- 触媒、溶剤、冷媒、熱媒、ろ過剤、潤滑油その他これらに類する物
- 原料または燃料その他これらに類する物
4.対象となる事故例
事故例と損害額
- 台風により、建物外装改修工事中の外壁の型枠が脱落した。(110万円)
- ビルの付帯設備である給水用配管の組立時、閉止プラグを取付けるのを忘れて通水テストを実施したため、大量に漏水し階下の空調用自動制御盤内に流入して盤内の配線機器が絶縁破壊した。(390万円)
- 二重殻低温タンクについて水張り試験終了後、大量の水抜きをしたところ、屋根部分のバルブを開放していなかったためバキュームを起こし、タンク上部を損傷した。(3,700万円)
- 橋梁工事で鋼製の主桁2本を設置作業中、主桁間の転倒防止用仮つなぎが不十分であったため、突風により主桁が転倒した。(2,000万円)
- し尿処理施設工事で集中豪雨により組立現場隣接の水路が増水して水が流れ込んだため地下2階の機械設備が冠水し、送風機、電動機、焼却炉が損傷した。(1,800万円)
- 冷凍庫設備の防熱工事中に溶接の火花がウレタンボードに落下、火災となり保温材等を焼失した。(1,500万円)
- 電話線設備工事で電話ケーブルの敷設中、マリンホールの鍵を壊されて電線が盗難にあった。さらに残りの電線にも盗難時の切断箇所から雨水が浸入して絶縁破壊し、使用不能となった。(1,000万円)
- 石油精製プラント工事で試運転中、接触改良装置において、振動および熱応力のため出口側フランジ部に亀裂が発生、ナフサ、水素が漏れ着火爆発した。(3,700万円)
5.補償対象となる損害
5-1.施工上の作業に伴い発生した事故による損害
- 作業員、従業員または第三者の取扱い上の未熟、拙劣、過失、悪意などによる損害
- 組立作業の欠陥によって発生した損害
- 設計、材質、製作の欠陥によって発生した損害
5-2.外来的な事故による損害
- 土地の沈下・隆起、地すべり、土砂崩れ
- 盗難によるもの
5-3.その他の事故
- 火災、爆発、破裂による損害
- ショート、アーク、スパーク、過電流などの電気的現象による損害
6.契約方式と保険期間
6-1.契約方式
契約方式は個別契約と年間包括契約(総括契約とも呼ばれます。)があります。
6-1-1.個別契約方式
個別契約方式は、請負工事ごとの契約を締結する方式で、保険期間は、工事着工日から工事目的物の引渡し日(予定日)までとなります。保険料は請負契約書などにより、確定保険料となります。
6-1-2.年間包括契約(総括契約)
保険期間を1年として、1年間に請け負う工事をまとめて契約する方式です。保険料は、年間請負工事の見込完成工事高に基づいて暫定保険料で締結し、保険期間終了後に、確定した請負工事高に基づいた確定保険料を算出し、暫定保険料と精算します。
7.保険金額、保険料の決まり方
7-1.保険金額
保険金額は消費税を込んだ額で算出し、下記の計算式によります。
保険金額 = 請負金額 + 支給材料の金額 - 保険の目的に含まれない工事の金額
保険の目的に含まれない工事とは、解体、撤去、分解または取片づけ工事などが該当し、これを含めることはできません。
7-2.保険料
組立保険の保険料は、保険金額、工事の目的物(機械、設備、鋼構造物などの種類)、工事期間などによって決定され、工事種類により保険料水準は大きな幅があります。具体的な保険料は、保険会社に確認しましょう。
7-3.保険料例1
工事内容:レーザー加工機据付工事
工事期間:2か月間
請負金額:2,000万円
保険金額:2,000万円
支給材:なし
自己負担額:10万円
損害賠償責任担保
特約保険金額 1事故5,000万円
保険料 :6万円
7-4.保険料例2
工事内容:ビルの冷暖房設備の設置工事
工事期間: 2か月間
請負金額:5,000万円
保険金額:50,000千円(免責金額2万円)
支給材:なし
自己負担額:なし
損害賠償責任担保
特約保険金額 1事故5,000万円(免責金額0円)
合計保険料 約10万円
7-5.保険料見積もりに必要な書類
保険料見積もりに必要な書類は工事請負契約書、工事費内訳明細書、工事計画書および工事仕様書、図面、工事工程表 などです。保険料概算見積もり出れば、工事の目的物が明記された工事請負契約書または工事費内訳明細書のいずれかで可能です。
8.主な免責事項(保険金を支払わない場合)と注意すべきポイント
8-1.損害保険全般で免責となる下記に起因する損害
- 戦争、外国の武力行使、革命、政権奪取、内乱などその他これらに類似の事変
- テロ行為 暴動または騒擾じょう
- 不発爆弾または機雷
- 官公庁による差押、徴発、没収または破壊
- 地震もしくは噴火またはこれらによる津波
- 核燃料物質(使用済燃料を含みます。以下同様とします。)もしくは核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含みます。)の放射性、その他の有害な特性による事故、照射または汚染など
- 保険契約者もしくは被保険者または工事現場責任者の故意もしくは重大な過失または法令違反
8-2.組立保険特有の免責
- 保険契約者もしくは被保険者または工事現場責任者の工事仕様書記載の仕様または施工方法に対する著しい違反によって生じた損害
- 風、雨、雹(ひょう)もしくは砂塵、その他これらに類するものの吹込みまたはこれらのものの漏入によって生じた損害
- 保険の目的の性質もしくは欠陥またはその自然の消耗、さび、または劣化
- 損害発生後30日以内に知ることができなかった盗難の損害
- 残材調査の際に発見された紛失または不足の損害
- 保険証券記載の工事以外の用途に使用された場合において、その使用によってその使用部分に生じた損害
- 被保険者が、完成期限もしくは納期の遅延または能力不足その他の債務不履行により損害賠償責任を負担することにより被った損害
など
9.主な特約
9-1.残存物の解体および取片づけ費用補償特約
事故発生により保険金が支払われる場合に、損害の生じた保険の対象の残存物の取片づけに必要な費用を、復旧費に算入することで、補償します。
9-2.荷卸危険補償特約
工事現場における輸送機関からの保険の対象の荷卸作業中に、不測かつ突発的な事故によって保険の対象に生じた損害を補償します。
9-3.損害賠償責任補償特約
工事現場において、工事の遂行中に偶然な事故が生じたことにより保険期間中に発生した他人の身体の障害または財物の損壊について法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害を補償します。
9-4.特別費用補償特約
事故発生により保険金が支払われる場合に、保険の対象物の復旧に要する急行貨物割増運賃(航空貨物輸送運賃を除きます。)および残業・休日勤務または夜間勤務による割増賃金を復旧費に参入することで、補償します。
9-5.メンテンナンス期間に関する特約
組立保険の対象工事の工事請負契約書において、工事の目的物の引渡し後のメンテナンス期間が規定されている場合で、そのメンテナンス期間中に発注者以外の被保険者が自らの費用で復旧すべき責任を有する損害について、この特約の定める範囲で補償します。
10.まとめ
組立保険の対象工事の目的物は、保険の対象範囲に入らない既存の建物や設備に定着または接触している状態で作業が行われることが多いため、保険の対象物に関する誤解が多い状況があります。補償の対象物については特に注意しましょう。