逓増定期保険の仕組みと活用法

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逓増定期保険とは

逓増定期保険とは、どのような保険なのでしょうか?終身保険や医療保険、がん保険などは聞きなじみがあるかと思います。しかし逓増定期保険は、一般の人には聞きなじみがない保険だと思います。それもそのはずで、逓増定期保険とは、終身保険などの個人向けの保険ではなく法人向けの保険だからです。法人向けの保険とは、要は企業のための保険です。会社に保険なんて必要あるの?と思われている人も多いと思います。答えは、法人にも保険は心要です。多くの経営者は、この逓増定期保険を利用しています。

ではなぜ経営者は、逓増定期保険を利用するのでしょうか?企業経営をしていると、様々な問題が出てきます。例えば突発的に資金が必要になること、税金の支払い、後継者へのスムーズな事業承継…。他にも様々な課題はあると思います。逓増定期保険は、これらの課題を解決してくれる手段になるのです。もちろん、これらの課題は、逓増定期保険でなくても解決してくれます。あくまで、逓増定期保険は経営課題を解決してくれる一つのツールという風に考えてください。

逓増定期保険の必要性を理解して頂くために、逓増定期保険の構造や仕組みについて説明します。逓増定期保険は、保険期間が経過するごとに保険金額が増加し、保険期間満了までに契約当初の金額から5倍まで増加する定期保険です。保険金額が、契約当初と比べて5倍も増えるなんてすごいですね。逓増定期保険の被保険者は経営者になります。経営者の万が一のことがあった時に、大きな保険金を受け取ることの出来る安心感のある保険になっています。

では、逓増定期保険に加入する経営者は、保険金のためだけに逓増定期保険に加入をするのでしょうか?保険金は、逓増定期保険の大きな目的ではありますが、それだけではありません。逓増定期保険は、退職金の準備や事業承継、節税に利用出来るのです。なぜ上記のような目的で、逓増定期保険を利用することが出来るのでしようか?退職金や事業承継、節税などは、多くの経営者にとって関心のある項目です。ではこれより逓増定期保険の活用法について詳しく説明していきます。

逓増定期保険の活用法

この章では、逓増定期保険の活用法について説明していきます。逓増定期保険は、死亡保障だけでなく、事業の緊急資金や事業承継、節税としても利用することが出来ます。

1つずつ徹底的に説明していきます。

死亡保障としての活用法

逓増定期保険の1つ目の活用法は、死亡保障です。先ほども説明しましたが、逓増定期保険は、保険を契約してからの年数が経過すれば経過するほど死亡保険金が増加する仕組みになっています。特に中小企業の場合、経営者に万が一のことがあったら大変です。多くのオーナー企業は、経営者が重要な案件を独断で決めているのではないでしょうか。経営者の影響が非常に大きいので、経営者に万が一のことがあったら会社の屋台骨に大きな影響が出てしまいます。そんな混乱した状況の時に、大きな保険金は、これからの企業経営に大きな助けになるのです。経営者や会社の基幹となる役員に万が一が、あった時の資金を確保することが出来ます。

緊急資金に備えての活用法

逓増定期保険の2つ目の活用法は、緊急資金に備えることが出来ることです。会社を経営しているとなにが起こるかわかりません。例えば、予定していた売掛金の入金が急に延期されることがあるかもしれません。そのような場合に逓増定期保険は役に立ちます。

逓増定期保険は、解約した時の解約返戻金の返戻率が高いので、いざというときは、逓増定期保険を解約して、資金を充てることが出来るのです。

また逓増定期保険は、保険を担保にお金を借りることが出来ます。借りることの出来るお金は、解約返戻金の80%~90%程度のことが多いです。銀行から融資を受ける時に必要な審査は、特にないので申惧してから大体1週間くらいで、手元にお金を手にすることが 来ます。金利は、逓斌定期保険の利率+1%程度です。この保験を担保にお金を借りる仕組みを「契約者貸付」といいます。逓増定期保険は、資金が必要になった時に、活用することが出来ます。

退職金準備としての活用法

逓増定期保険の3つ目の活用法は、退職金の準備です。経営者が勇退するときは、多額の退職金は支払われることが一般的です。この退職金の資金に、逓増定期保肤の解約資金を充てることによって準備をすることが出来ます。逓増定期保険は、一般的に解約返戻率がピークになる時期が決まっています。ピークが来た時に、逓増定期保険を解約して、退職金の支払いに充てることが出来れば、計画的に退職金を準備することが出来るのです。

事業承継としての活用法

逓増定期保険の 4つ目の活用法は、スムーズな事業承継に利用出来ます。特に、中小企業においては、事業承継は非常に重要な問題です。事業承継で問題になるのが、自社株です。自社株の価格が高いために自社株の譲渡が出来ないケースが多々あります。スムーズに、自社株を後継者に譲渡するためには自社株の評価を下げる必要があります。

自社株は、資本金の多寡は基本的に関係がないので例え資本金が少額でも、長期間利益を出している会社では、純資産が多く、1株当たり数十倍、数百倍というケースもあります。この高くなった株価が、事業承継を行う際の大きな問題になります。自社株の評価を下げるためには、利益を出さずに損失を出せばいいのですが、事業を行っている以上、損失を出すことはよくありません。銀行の借り入れなどに大きな影響が出てしまうからです。

ここで逓増定期保険の、保険料が役に立ちます。自社株は、会社の規模によって異なりますが、類似業種比準方式が使われることが多いです。類似業種比準方式とは、同業の上場会社の株価をもとに、会社の1株当たりの配当、利益、純資産の3つから評価する方式です。

逓増定期保険の保険料は、一部費用計上することが出来るので、逓増定期保険の保険料は、利益を圧迫することになるのです。利益を圧迫することで、結果的に自社株の株価を引き下げることになります。

また、経営者に万が一のことがあった場合、自社株を経営者以外が持っていた場合は、自社株の買い取りが必要になります。逓増定期保険の保険金を自社株の買い取り資金に充てることが可能になります。

節税としての活用法

逓増定期保険の5つ目の活用法は、節税に役に立つことが出来ほす。逓増保険の保険料は、最大2分の1まで損金に計上することが出来ます。例えば、毎年の保険料が1,000万円であれば、2分の1の500万円は「支払保険料」という費用になり、残りの500万円が「前払保険料」という資産として貸借対照表上に載せます。もし保険料を10年間支払った場合、10年後には、貸借対照表には保険料積立金が5,000万円貯まります。この保険は契約から10年で100%が戻ってくる設計となっていて、解約すれば解約返戻金は1億円になります。そして、そこから前払保険料5,000万円を差し引いた5,000万円が、一気に帳簿上に現れることになります。この5,000万円は、雑収入として益金に算入されます。したがって、同じ年度に5,000万円の費用のかかる設備投資や退職金の支出があれば、この益金とぶつけることが出来るので結果として節税になるのです。

しかし、5,000万円の雑収入にかかる費用がなければ、しっかりと課税されることになります。逓増定期保険を、節税目的で使うためには、出口戦略がなによりも重要になるのです。

逓増定期保険の税務処理

この章では、逓増定期保険の税務処理について説明します。まず税務的に逓増定期保険となるものは、以下の条件を全て満たすものをいいます。

  • 保険金額が加入時の5倍以内まで増加するもの
  • 保険期間満了時における被保険者の年齢が45歳を超えるものに

なります。この2つの条件が満たされない限り、逓増定期保険にはなりません。損金の割合ですが、下記のようになります。
逓増定期保険の保険料の損金割合は、下記表に定める区分に応じます。

区分 保険期間の前半6割の期間 残りの期間
①保険期間満了の時における被保険者年齢が45歳を超えるもの

(②ま又は③に該当するものを除く)

2分の1損金
2分の1資産
全額損金
保険期間満了の時における被保険者の
年齢が70歳を超え、かつ、当該保険に
加入した時における被保険者の年齢に
保険期間の2倍に相当する数を加えた数が95を超えるもの(③に該当するものを除く)
3分の1損金
3分の2資産
全額損金
③保険期間満了の時における被保険者の年齢が80歳を超え、かつ、当該保険に加入した時おける被保険者の年齢に保険期間の2倍に相当する数を加えた数が120を超えるもの 4分の1損金
4分の3資産
全額損金

逓増定期保険の税務処理のやり方

逓増定期保険の税務処理のやり方について説明します。保険料の支払いの段階の税務処理、解約した段階での税務処理、万が一が、あった時の税務処理に分けて説明します。

保険料支払いの段階の税務処理

保険料の支払いの段階の税務処理は、保険料を支払う最初の60%の期間と残り40%の期間によって異なってきます。

なぜ全期間、同じ税務処理ではないのでしょうか?それは、保険料が全期間一定のことと死亡率が関わってきます。本来、保険は、年齢が上がるにつれて死亡率が上がっていくので保険料は毎年上がってくるはずです。例えば契約期間20年の保険で、契約時の年齢が50歳の場合、保険の満期を迎える時は70歳になっています。当然、50歳と70歳では死亡率は全然違いますよね。しかし、逓増定期保険の保険料は、満期まで常に一定です。何故かというと保険料が変わってしまうと加入者にとってあまり好ましいことではないためです。保険料が毎年変わってしまうと財務諸表にも影響してしまいますよね。そこで保険会社は、保険料を一定するために、保険期間の前半の間、保険会社が後半の保障に充てるお金を預かっておく仕組みを採用しているのです。要は保険料の前払いを受けている形になります。これを「前払保険料」と言います。そうすると前半の期間の保険料は、全額保険金を受け取るための保険料ではありません。純粋に保険金を受け取るための保険料と後半の保障のための前払い保険料に分かれます。後半の保険料は、年齢が経っているので後半の保険料だけでは契約した保険金を受け取るための保険料には足りません。そこで前半の前払い保険料を、契約した保険金を受け取るための保険料に充てるのです。これを会計上どのように取り扱うのかを厳密に行うと非常に難しいため、前半60%、後半40%で保険料の取り扱い方を変えているのです。前半60%は、前払保険料が含まれているため、一部を資産計上、一部を損金計上にしているのです。この一部の部分が2分の1損金タイプ、3分の1損金タイプと呼ばれるのです。後半は、前払保険料を保険料に充てるので全額損金計上出来るようになります。

しかし、逓増定期保険は、解約返戻金のピークが前半に来ることが多いです。満期まで保有することはほとんどないため、2分の1損金タイプ、3分の1損金タイプというふうに呼ばれているのです。

解約した段階の税務処理

逓増定期保険を解約した時の税務処理ですが、解約返戻金のピークは前半60%の間に迎えることが多いのでピークで解約した場合の税務処理について説明します。

逓増的保険を解約した場合の税務処理ですが、

解約返戻金-前払保険料=雑収入

という形になります。解約返戻金から前払保険料を引いた金額が雑収入として課税の対象になります。

万が一があった段階の税務処理

万が一があった時の税務処理ですが、基本的に解約返戻金を受け取った場合と一緒になります。

保険金-前払保険料=雑収入

という形になります。

逓増定期保険の税務処理の注意点

この章では、逓増定期保険の税務処理の注意点について説明します。

保険料支払いの段階の税務処理

保険料支払いの段階での税務処理の注意点は、やはり前半60%と後半40%で税務処理が異なってくることです。逓増定期保険は、解約返戻金のピークが、前半に来ることが多いので後半の税務処理についてはあまり取り上げられることがありません。しかし、満期まで逓増定期保険を持っている可能性は「0」ではありません。後半の逓増定期保険の保険料はすべて損金計上出来ることは一応知っておくことは重要です。

解約した段階の税務処理

解約した段階での税務処理の注意点は、ずばり出口戦略です。解約をすることによって出た雑収入を退職金などの費用に充てることが出来なければ、この雑収入に対してしっかり課税されてしまいます。課税されてしまったら単なる課税の繰り延べになってしまうのでしっかりとした出口戦略を持つことが重要になります。

万が一があった段階の税務処理

万が一があった時の税務処理ですが、これについては特に注意点はありません。もちろん保険金の受取で発生した雑収入を何かの費用に充てることが出来ればいいですが、人はいつ亡くなるか分からないのでそこまでの予想は難しいでしょう。したがってもちろん費用に充てることが出来ればいいですがそれよりも経営者に万が一のことが起きた時のその後の経営についてどうしていくかをしっかり考えておくことの方が重要です。

逓増定期保険のデメリット

この章では、逓増定期保険のデメリットについて説明します。メリットの多い逓増定期保険ですが、当然デメリットもあります。逓増定期保険の主なデメリットは、5つあります。

キャッシュフローの圧迫

逓増定期保険のデメリットの1つ目は、キャッシュフローの圧迫です。逓増定期保険の保険料は、一般の保険に比べて高額に設定されていることが多いです。何故なら、事業承継や節税のために使われることが多いので、保険料が高いほうが、都合がいいのです。保険料が高いことによって利益を圧迫するからです。しかしこの高額な保険料は、キャッシュフローの圧迫につながってしまいます。

無理のない保険料であれば問題はないですが、今後のビジネスの展開や、解約返戻金のピークまで保険料を払い続けることが出来るかをしっかり契約の段階で検討することが必要です。後々保険料が高すぎて、新しいビジネスを展開出来ないことに繋がってしまっては元も子もありません。事業承継や節税は大事ですがあくまで本業のビジネスが一番大切なことをしっかり認識して保険料を設定する必要があります。

保険料に上限がある

逓増定期保険のデメリットの2つ目は、保険料に上限があることです。特に年齢が高い経営者を被保険者にする場合は、注意が必要です。高額の保険料を設定したい場合でも保険料に上限があることはデメリットになります。また、逓増定期保険は、当然生命保険になるので身体の状態によっては、希望する保険料を支払うことが出来なくなってしまうこともデメリットになります。

早期解約のリスク

逓増定期保険のデメリットの3つ目は、早期解約のリスクです。逓増定期保険は、一般的に契約して短期間で解約をすると大きくマイナスになってしまいます。特に、一定期間の解約返戻金を抑えた、低解約返戻型逓増定期保険の場合は早期で解約してしまうとごくわずかな解約金しか受け取ることが出来ません。一時的に大きな利益が出たからとって大きな保険料で契約してしまうと、結果的に大きな損失を被ってしまうことになるのです。

解約するタイミングによって意味がなくなる

逓増定期保険のデメリットの4つ目は、解約するタイミングによっては意味がなくなることです。このケースは退職金の場合に多いです。特にオーナー経営者の場合に多いのですが、勇退の時期を決めていてもいざその時になると勇退しないオーナーはたくさんいます。せっかく逓増定期保険のピークに、勇退の時期を選んだのに実際に退任しなければ逓増定期保険を解約する意味はなくなります。逓増定期保険は、解約返戻金のピークを過ぎるとどんどん解約返戻率は下がってしまいます。解約返戻率が低いタイミングで解約をして退職金に充てても結果的には、逓増定期保険にしなければよかったという事態になってしまうのです。

解約時の出口戦略によっては意味がなくなる

逓増定期保険のデメリットの5つ目は、解約時の出口戦略によっては、逓増定期保険の意味がなくなってしまうことです。逓増定期保険は、解約をすると、「解約返戻金-前払保険料」が課税対象となります。つまり契約時に節税対策として加入していたとしても、解約時点で課税対象になるのであれば、単なる税の繰り延べとなり節税効果は全くなくなってしまうのです。退職金などの、明確な出口戦略がなければ、逓増定期保険は意味のないものになってしまう可能性があります。

まとめ

今回は、逓増定期保険についてまとめました。逓増定期保険は様々なメリットがありいろいろな使い方が出来る保険です。しかし逓増定期保険は使い方によっては大きなデメリットにもなる保険です。逓増定期保険のメリット、デメリットについてしっかり理解し自社に有効な契約をすることが何よりも大切になります。

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