労災上乗せ保険の加入義務|請負形態・経営事項審査との関連

従業員や下請企業が業務中にけがを負った場合に補償する労災上乗せ保険ですが、加入するしないは自由です。ただ場合によっては加入義務が発生するケースがあります。どのような場合に加入義務が発生するのか、事例をもとに紹介します。
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1.はじめに

従業員、下請企業に万一のことがあった際、労災上乗せ保険に入っていれば治療費、休業損害等を会社から補償することができます

しかしあくまで法定労災の「上乗せ補償」という位置づけであり、車の保険における「任意保険」と同じように、労災上乗せ保険は加入を義務付けられていません。しかし実際には、業種によって実質的な加入義務が発生するケースもあります。

労災上乗せ保険の加入義務

労災上乗せ保険に加入義務はないが、実質的に入らないわけにはいかない状況も多々ある

また、こと労災上乗せ保険については、経営事項審査との兼ね合いで、「入らざるを得ない」「入らない手はない」というこれもある意味実質的な加入義務に近い事情が発生することがあります。

ここではそれらについて解説します。

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2.労災上乗せ保険に実質的な加入義務が発生する場合

それでは労災上乗せ保険において加入義務が発生するケースはどんなケースでしょうか。

加入義務が課される典型的な例としては、建設業において工事を請け負う事業者(下請業者)である場合や、公共工事を請け負う事業者である場合が挙げられます。

2-1.元請け企業からの受注資格・要件

建設現場では高所での作業、重機を使った作業が多いことは周知の通りでしょう。つまり建設業は常に労災リスクと隣り合わせなわけです。そしてひとたび現場で事故が起こると、その責任は発注元である元請企業にまで当然及びます。

下請け業者に業務を発注している事業者としては、下請けの責任における労災事故は、下請けの責任のもとに補償を行ってほしい、と考えるわけです。結果的に、下請業者として業務を発注できる条件の中に、「労災上乗せ保険を完備していること」が組み込まれることになります。

2-2.公共工事の受注のために

公共工事、つまり国や都道府県、市区町村が発注する工事(道路工事や学校などの改装など)を請け負う企業の場合、労災上乗せ保険に積極的に加入しようとするインセンティブが働きます。経営事項審査の加点のためです。

公共工事を請け負う場合、通常は入札によって決めますが、その際に経営事項審査の点数が重要になってきます。労災上乗せ保険に加入していると経営事項審査において加点を受けられるため、加入義務というよりも実質的に入らないわけにはいかない、当然備えるべきものとして加入することがほとんどです。

2-2-1.経営事項審査とは

経営事項審査とは平たく言うと、建設業者の規模や経営状況に点数をつけたものです。公共工事を受注する場合、この経営事項審査の点数が一定以上ないと入札に参加することも困難となります。そのため公共工事を請け負う建設業者は経営事項審査の点数を意識する必要が出てきます。

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3.参考:加入義務のある保険

保険契約は任意で行うものなのに、加入義務が発生する保険とはどういったものでしょうか。自動車保険と火災保険、傷害保険それぞれで見てみましょう。

3-1.自動車保険の場合

自動車保険の場合一般的なのは自賠責保険でしょう。自賠責保険は自動車事故が発生した際、被害者の人身損害を補償する保険です。

交通事故の被害者を救済するために加入を義務付けられています。自賠責保険は車検の費用の一部という印象が強く、自分で契約したという感覚は無いかもしれません。

3-2.火災保険の場合

火災保険は家にかけ、火災はもちろん台風や洪水なども補償する保険です。マイホームを買う際はローンを組むことが多いと思いますが、ローンを組むと銀行から火災保険の加入を義務付けられます

これは万一家が火災で全焼してしまった場合、保険金が無ければ持ち主にはローンだけが残り、支払い不能になり銀行が損失を受けるのを防ぐ意味合いがあります。

昔は銀行が代理店をやっており、その代理店での加入を義務付けるケースが多かったですが、最近では代理店の指定まで行わないことが一般的です。

3-2-1.火災保険の質権とは

住宅ローンを組んで火災保険に加入すると、保険の質権設定を義務付けられることがあります。質権とは保険金支払先を質権者に支払うという取り決めのことで、住宅ローンを組んで保険加入した場合、質権者は銀行になります。

つまり家が全焼して保険金が支払われることになると、その保険金は銀行に行くというかたちになります。この保険金をもってローンを完済し、持ち主にはローンが残らないような形にするという仕組みです。

3-3.傷害保険の場合

傷害保険は労災上乗せと同様、けがをした際に支払われる保険です。傷害保険の一種として自転車保険があり、これは自身のけがと人にぶつかってけがをさせた場合の賠償保険がセットになっている保険商品です。

2018年5月時点で都道府県単位では埼玉県、滋賀県、大阪府、京都府、兵庫県、鹿児島県で加入が義務付けられています。これには自転車事故による高額賠償が増えている背景があり、今後他の都道府県にも展開していくと考えられます。

4.まとめ

労災上乗せ保険の加入義務について、主に建設業に注目して解説しました。法的に加入義務が課されているわけではないものの、様々な要因によって実質的には加入義務があるような状況になる場合があることがお分かりいただけたでしょうか。

加入義務の有無に限らず、法定労災だけでは補償は不十分だったり使用者賠償責任への備えもオプションで付けられることも多く、もし未加入であれば一度検討する価値は十分にあるといえます。

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