建設工事保険とは|必要性・補償内容・注意点などの基礎知識

「建設工事保険」は建設工事の請負契約に際し、加入が義務化されるほど普及しています。「保険の対象となる、ならない」を確認しておく事は、現場作業を行う建設業界関係者にとって極めて重要です。
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1.はじめに

損害保険には建設業界向けの保険商品がいくつかあります。その代表的なものが、その名も「建設工事保険」です。工事を請負う際に加入を義務付けられるケースもあるほど普及しています

民間保険会社が販売するこの商品が、業界に定着しているのはなぜでしょうか。それは、この保険は、建設業者が作り上げた工事の対象物を守る機能があり、さらに建設事業者が「あると助かる」補償がセットされているからです。建設現場に「あると助かる」内容を解説します。

建設工事現場の風景

建設工事保険は、受注業者に加入が義務付けられるほど必須の保険となっている

なお、建設工事保険についての記事一覧は建設工事保険のすべてにまとめてあります。また、法人向けの損害保険全般について知りたい方は、法人向け損害保険のまとめに各商品ページへのリンクがまとめてありますのでぜひのぞいてみてください。

2.工事現場のリスクの種類と対応する保険商品

工事現場におけるリスクは、大きく分けて4つに分類することができます。

  1. 現場で作業する人のけが
  2. 現場作業で使用される建設機械の破壊・損傷
  3. 建設中の建物・構造物の損壊
  4. 現場および現場付近の第三者のけが、第三者の財物の損壊

それぞれに対応する保険が用意されています。

2-1.現場作業員のケガ・労働災害(労働災害総合保険)

工事現場における事故で、作業員・労働者がケガをした場合は、政府労災の補償対象となりますが、法律で定める最低限の補償(法定補償)であり、その上乗せ補償(法定外補償)を提供する保険が労働災害総合保険です。

政府労災と同様に、被用者賃金を基礎に保険料を決定します。

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2-2.現場作業中の建設機械の損害(動産総合保険)

建設現場では、多種多様な建設機械が使用され、その中には高額な精密機械もあります。これらの機械の不慮の事故損害を補償する保険が動産総合保険です。

しかしながら、建設作業現場における作業自体も大きな危険をはらんでいるため、保険料も高額となる傾向があり、保険加入は限定的となっています。

なお、建設機械のうち自動車登録番号があるものは、自動車保険の車両保険に加入することも可能です。

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2-3.建設中の建物・工作物の損害(建設工事保険、土木工事保険、組立保険)

工事の種類によって3つの専用の保険があります。

工事・作業の目的物である工事中の建物、土木工作物、タンク施設などについて工事着工から完成引き渡しまでの間、建造途中の目的物を補償する保険。

建造物が建物の場合は建設工事保険、道路や防波堤の場合は土木工事保険、工場のタンクなどの施設の場合は組立保険が補償します。

完成後の建物の火災保険と同様に、建築中の建物の損害保険として建設工事保険は普及しています

2-4.第三者の損害に対する賠償事故(請負業者賠償責任保険)

請負業者賠償責任保険は、工事現場または工事現場の近隣などで、工事作業が原因で第三者がケガを負う、または第三者の建物や車などの財物に損害が及んだ場合に、工事業者が負う法律上の賠償責任を補償します。

2-5.補足:工事現場以外の事故や経営問題に関する保険

損害保険では、自動車保険(社有車)、火災保険(社屋、倉庫等)などの保険があります。

生命保険では、経営者保険と呼ばれる商品群や、役職員退職金の準備に役立つ積立保険などがあります。

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3.建設工事保険の対象となる工事とその範囲・対象物

建設工事保険は完成後の建物の火災保険と同様に、建築中の建物など工事の目的物の損害保険として普及しています。

対象となる工事はビル、工場建設、住宅、マンションなどの建物の建築(増築・改築・改修工事を含む)を主体とする工事を対象としています。

なお、土木工事を主体とする工事は、土木工事保険、鋼構造物(鉄塔、タンクなど)の建設を主体とする工事は、組立保険で補償します。

3-1.建築中の建物(工事の目的物であり、増改築・改修工事も含みます。*)

*新たに建造される「物」そのものを対象としますので、増改築等で既存建物の壁・天井などに作業を加える場合、その壁・天井は対象とはなりません。

3-2.上記の工事に付随する仮工事の目的物、工事用仮設物

仮工事の目的物は、型枠工、支持枠工、足場工、支保工などが含まれます。

工事用仮設物は、電気配線、配管、電話設備、照明設備、保安設備などが該当します。

3-3.現場事務所・宿舎および工事用仮設建物に収容されている什器・備品

家具・衣類・寝具・事務用具・非常用具など該当します。

3-4.建設工事保険の対象とならないもの(工事現場構内にあっても対象となりません。)

  • 据付機械設備等の工事用仮設備と工事用機械・器具・工具
  • 自動車、航空機、船舶(工事現場構内にあっても対象外)
  • 設計図書・証書・帳簿・通貨・通貨証券など
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4.建設工事保険の補償対象となる損害

工事現場における「不測かつ突発的な事故」による損害に対して保険金が支払われます。

4-1.火災・落雷・破裂・爆発による損害

4-2.盗難による損害

盗難被害を警察へ届け出ることが必要要件となります。

損害発生後30日以内に知ることができなかった盗難の損害は対象となりません。

盗難と断定できない紛失損害は対象となりません。

4-3.設計の欠陥、作業員の故意・過失に起因する事故によって損害

設計段階の建物構造強度の問題で損壊した、作業員の施工ミスにより損傷し再作業となったなどの損害を想定しています。なお、作業員の故意・過失は対象となりますが、現場責任者の故意は対象となりません

保険契約者または被保険者である建設会社(事業者)にとって下請け業者も含めた作業員の作業行為は建設現場における作業遂行のリスクの1つと定義しています。

一方で現場責任者は、建設会社(事業者)と一体として定義されるからです。

4-4.風災(台風、暴風、竜巻)や雹災(ひょう災)、外部からの衝突、飛来による損害

車の衝突、航空機などの落下も含まれます。

なお、風雨など原因とした損害が建物外部に生じていない状態で、吹込みによる建物内部の汚損、水濡れなどの損害は対象となりません

4-5.特約で補償するもの

  • 水災(高潮、洪水、豪雨による土砂崩れ・落石など)による損害
  • 雪災(自然変象に伴う寒気、霜、氷も含む)による損害

これらは、立地条件によって損害発生の可能性(リスク)に多寡があるため、別途保険料を支払って補償を得るか特約(特別約款)で補償されます。

4-6.建設工事保険で支払われる保険金

次の3種類の保険金の合計額が支払われます。

4-6-1.(A)損害保険金

損害の生じた保険の目的(建設中の建物など)を、損害発生の直前の状態まで復旧するために直接要する再建築、再取得または修理に必要な金額です。請負契約に記載された内訳書を基礎として算出されます。

なお、保険契約で定めた補償限度額(保険金額)が、工事の請負金額よりも少額な場合損害保険金の算出は、下記の算式によります。

損害保険金= 損害の金額 × 保険金額/請負金額

4-6-2.(B)残存物取り方づけ費用保険金

損害を受けた後の保険の目的の残存物の片づけに必要な費用について実費が支払われます。ただし、上記の損害保険金の6%が限度となります。

4-6-3.(C)臨時費用保険金

保険の目的に損害が生じたことで臨時に発生する費用(*)として損害保険金の20%(定額)が支払われます。ただし、1事故100万円が限度となります。

*損害発生後の原因調査日費、見舞金、突貫工事などの追加工事費用を想定したものです。

5.建設工事保険の注意すべき免責事項

大きく分けて損害保険全般で免責(保険金をお支払いできない場合)となるもの、建設工事保険特有の免責の2種類があります。

5-1.保険契約全般で免責事項

  • 保険契約者、被保険者または工事現場責任者の故意もしくは重大な過失または法令違反によって生じた損害
  • 保険の目的の性質もしくは欠陥またはその自然の消耗もしく劣化
  • 戦争、外国の武力行使、テロ、革命、内乱、暴動などによる損害
  • 官公庁による差し押さえ、没収などによる損害(ただし火災の延焼防止のために行われるものを除きます)
  • 地震または噴火またはこれらによる津波による損害
  • 核燃料物質もしくは核燃料物質によって汚染された物の放射能などによる損害

5-2.建設工事保険特有の免責事項

  • 風、雨、雪、雹(ひょう)もしくは砂塵の他のこれらに類するものの吹込みまたはこれらのものの漏入によって生じた損害(風雨等を原因とした損害が建物外部に生じていない状態で、吹込みによる建物内部の汚損、水濡れなどの損害)
  • 損害発生後30日以内に知ることができなかった盗難の損害
  • 保険の目的の設計、施工、材質または製作の欠陥を除去するための費用
  • 残材調査の際に発見施工された紛失または不足の損害
  • 湧き水の止水または排水費用

6.建設工事保険の包括(総括)契約と特約

建設工事保険は、原則、保険期間工事着工の日から工事目的物の引渡日までとする工事ごとの契約ですが、契約者(建設工事業者)が年間を通じて着工するすべての工事を包括的に補償する契約を締結することが可能です。

6-1.包括契約のメリット

  • 加入漏れの防止と事務手続きの簡略化
  • 個別契約に比べて、10%程度安い。(包括割引10%がすべての工事に適用される)
  • 包括契約の締結前に保険会社と相互確認・約定することで、一部の工事を包括契約から除外することも可能。

(*除外する工事の例、①JVによる工事、②請負金額〇億円以上の工事など)

6-2.請負業者賠償責任保険、労働災害総合保険の特約化

建設工事保険を年間包括で契約することと同様に、請負業者賠償責任保険、労災災害総合保険も年間を通じた包括契約とし、1セット契約とすることが可能です。

年間包括契約とした場合のメリットとして、次の効果があります。

  • 請負業者賠償責任保険に生産物賠償責任保険をセットできる。

工事終了後の第三者賠償(PL)も補償できます。

  • 労働災害総合保険の年間加入により経営事項審査の「法定外労働災害補償制度」の加点対象となります。

ただし、次の要件を満たす必要があります。

  • 死亡および後遺障害1~7級を対象としていること。
  • 業務災害と通勤災害をいずれも対象としていること。
  • 契約法人(建設会社)の従業員および下請負人(下請建設会社)の従業員すべてを対象としていること。
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7.まとめ

建設工事保険は、工事請負契約を基礎とし、建設現場における建設目的物の「物としての価値」を補償する保険です。

さらに建設目的物を建設するための仮設物等も補償し、保険契約者である建設事業者または下請事業者の従業員の故意・過失(作業ミス)や設計ミスも補償対象とするなど、建設現場を取り巻く様々なリスクを補償する点が大きな特徴です。

一方で、増改築における既存建物は補償対象とならないこと、風雨の吹込み損害が補償対象とならない点は注意が必要です。

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